【文献】最新の文献・研究を読んでみた⑩
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便秘症の新たなメカニズムを発見
ポイント
多くの患者が罹っている便秘症のメカニズムに腸の感受性の異常が関連している。
ひっぱり刺激を感じるTRPV4というイオンチャネルが大腸にある。
大腸をある種の腸内細菌の分泌物で刺激するとTRPV4が増加し、他の腸内細菌から分泌される酪酸があると増加しない。
実際、便秘患者の大腸ではTRPV4が増加していた。
腸内細菌叢を調えることで便秘が治療、予防される可能性が示唆された。
※TRPV4イオンチャネル
温度センサーとして注目を集めているTRPイオンチャネルという膜タンパク質のグループに属しており、TRPV4は体温付近の温かい温度域(30°C~)に加えて、浸透圧変化や力学的な変形によっても活性化する多刺激受容体として機能することが明らかとなり、環境センサーとしての役割が注目されている。
研究の内容・成果
ヒト結腸上皮細胞株と腸内細菌を一種類ずつ一緒に培養したところ、ひっぱり刺激を感じるTRPV4が、ある種のクレブシエラ菌、腸球菌、大腸菌と一緒に培養することで、増加することが観察された。また、その変化は菌そのものではなく、菌からの分泌成分であることも判明し、またある種の腸内細菌の分泌成分である酪酸と一緒に培養することで、TRPV4の増加が抑制された。以上の結果から、酪酸菌群の減少と、ある種のクレブシエラ菌、腸球菌、大腸菌の増加による、未知の分泌成分が大腸上皮のTRPV4の増加を介して、結腸の感受性を障害させている可能性が示唆された。
便秘患者の各種症状と、結腸粘膜のTRPV4の量、粘膜腸内細菌の分布の関連を検討したところ、便秘患者ではTRPV4の量が増加しており、TRPV4の量及び、結腸粘膜での腸球菌の頻度が、いくらかの便秘症状と関連。
今後の展開
本研究から、便秘症におけるある種のクレブシエラ菌、腸球菌、大腸菌やTNFα、酪酸によって調整されるTRPV4の量の新たな調整メカニズムが示された。大腸の引っ張り刺激の感受性の調節には、腸内細菌層とその分泌成分、そして、炎症物質TNFαのバランスが重要。従来、大腸の感受性が”低下”することが便秘の原因とされていたが、便秘患者では引っ張り刺激を感じるTRPV4がむしろ“増加”することが、結果として大腸を鈍感にしている可能性を示唆する本知見は、複雑な便秘症発症の解明に貢献するもので、便秘症を根本から治癒したり、発症を予防したりする新しいコンセプトを持つ治療戦略の創出への応用が期待される。
加齢に伴い硬くなった関節軟骨が長寿タンパク質を抑制 ~変形性関節症の病態解明や治療法開発に光~
ポイント
65歳以上の高齢者の約半数が有するとされる変形性膝関節症の詳細な発症メカニズムは分かっていなかった。
加齢に伴い硬くなった軟骨組織が長寿タンパク質であるα-Klotho(クロトー)を低下させ、変形性膝関節症を誘発することを明らかに。
本研究成果により、根治治療が未だ存在しない変形性関節症の病態解明や治療法開発が期待。
加齢による組織の硬さ増大は関節軟骨に特化した特徴ではないため、本研究成果は他の臓器における加齢性疾患の病態解明にも貢献する可能性がある。
※α-Klotho
α-Klothoには、体内のインスリンを抑制する作用があり、その抗インスリン作用を介し、老化抑制ホルモンとして働く。
研究成果
本研究グループは、長寿タンパクα-Klothoに着目し、加齢によって発現が減少するα-Klothoの関節軟骨における機能解析を進めてきた。具体的には、関軟軟骨の質量分析やバイオインフォマティクス、遺伝子工学的手法を駆使し、加齢に伴うα-Klothoの発現低下が関節軟骨変性に寄与することを明らかにした。さらに、この加齢に伴うα-Klothoの発現低下は、細胞を取り巻く細胞外基質の物理特性の変化によってDNAメチル基転移酵素が多く動員され、α-Klothoプロモーターメチル化が促進された結果であることも明らかに。これら一連の研究成果は、細胞外基質の物理特性やその機械的シグナル伝達、α-Klothoが軟骨治療の新規治療標的となる可能性を示すものになった。
高齢者の認知機能低下に関連する加齢性脳形態変化を報告
ポイント
高齢者では、加齢に伴い、「正常圧水頭症様」の脳形態に連続的に変化することが明らかに。
さらに、この脳形態変化は脳萎縮と同様に認知機能低下に関連することが明らかとなる。
本研究の結果から、老化による脳機能低下を予防する方法の開発につながる可能性がある。
研究の内容
本研究の対象者は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究」(調査期間:2015年11月~2016年3月)に参加した熊本県荒尾市在住の65歳以上の高齢者です。MRIデータを用い、特発性正常圧水頭症で体積変化がみられる、脳室、シルビウス裂、高位円蓋部・正中部のくも膜下腔※ 2の体積を定量化し、認知機能との関連を調べた。
成果
認知症のない高齢者1,356名のデータを解析した結果、脳室、シルビウス裂は加齢に伴い拡大する一方で、高位円蓋部・正中部のくも膜下腔は加齢に伴い縮小傾向を示し、高齢者では、加齢に伴い「正常圧水頭症様」の脳形態に連続的に変化することが明らかになった。さらに、これらの脳形態変化は脳萎縮と同様に、認知機能低下と関連していることが明らかとなった。
日本の研究:https://research-er.jp/