OT【作業療法】のブログ~医療・介護福祉・リハビリ~

2008年から作業療法士をしています。医療福祉の情報や病気、怪我、体験談なども書いていきたいと思います!! よろしくお願いします。

【文献】最新の文献・研究を読んでみた⑩

【文献】最新の文献・研究を読んでみた⑩

 

「書類を見ながらペンを走らせるビジネスパーソン」の写真[モデル:たくみ]

 

 

便秘症の新たなメカニズムを発見

ポイント

多くの患者が罹っている便秘症のメカニズムに腸の感受性の異常が関連している。

ひっぱり刺激を感じるTRPV4というイオンチャネルが大腸にある

大腸をある種の腸内細菌の分泌物で刺激するとTRPV4が増加し、他の腸内細菌から分泌される酪酸があると増加しない。

実際、便秘患者の大腸ではTRPV4が増加していた。

腸内細菌叢を調えることで便秘が治療、予防される可能性が示唆された。

TRPV4イオンチャネル

温度センサーとして注目を集めているTRPイオンチャネルという膜タンパク質のグループに属しており、TRPV4は体温付近の温かい温度域(30°C~)に加えて、浸透圧変化や力学的な変形によっても活性化する多刺激受容体として機能することが明らかとなり、環境センサーとしての役割が注目されている。

研究の内容・成果

ヒト結腸上皮細胞株と腸内細菌を一種類ずつ一緒に培養したところ、ひっぱり刺激を感じるTRPV4が、ある種のクレブシエラ菌、腸球菌、大腸菌と一緒に培養することで、増加することが観察された。また、その変化は菌そのものではなく、菌からの分泌成分であることも判明し、またある種の腸内細菌の分泌成分である酪酸と一緒に培養することで、TRPV4の増加が抑制された。以上の結果から、酪酸菌群の減少と、ある種のクレブシエラ菌、腸球菌、大腸菌の増加による、未知の分泌成分が大腸上皮のTRPV4の増加を介して、結腸の感受性を障害させている可能性が示唆された。

便秘患者の各種症状と、結腸粘膜のTRPV4の量、粘膜腸内細菌の分布の関連を検討したところ、便秘患者ではTRPV4の量が増加しており、TRPV4の量及び、結腸粘膜での腸球菌の頻度が、いくらかの便秘症状と関連。

今後の展開

本研究から、便秘症におけるある種のクレブシエラ菌、腸球菌、大腸菌やTNFα、酪酸によって調整されるTRPV4の量の新たな調整メカニズムが示された。大腸の引っ張り刺激の感受性の調節には、腸内細菌層とその分泌成分、そして、炎症物質TNFαのバランスが重要。従来、大腸の感受性が”低下”することが便秘の原因とされていたが、便秘患者では引っ張り刺激を感じるTRPV4がむしろ“増加”することが、結果として大腸を鈍感にしている可能性を示唆する本知見は、複雑な便秘症発症の解明に貢献するもので、便秘症を根本から治癒したり、発症を予防したりする新しいコンセプトを持つ治療戦略の創出への応用が期待される。

 

加齢に伴い硬くなった関節軟骨が長寿タンパク質を抑制 ~変形性関節症の病態解明や治療法開発に光~

ポイント

65歳以上の高齢者の約半数が有するとされる変形性膝関節症の詳細な発症メカニズムは分かっていなかった。

加齢に伴い硬くなった軟骨組織が長寿タンパク質であるα-Klothoクロトーを低下させ、変形性膝関節症を誘発することを明らかに

本研究成果により、根治治療が未だ存在しない変形性関節症の病態解明や治療法開発が期待。

加齢による組織の硬さ増大は関節軟骨に特化した特徴ではないため、本研究成果は他の臓器における加齢性疾患の病態解明にも貢献する可能性がある。

※α-Klotho

α-Klothoには、体内のインスリンを抑制する作用があり、その抗インスリン作用を介し、老化抑制ホルモンとして働く。

研究成果

本研究グループは、長寿タンパクα-Klothoに着目し、加齢によって発現が減少するα-Klothoの関節軟骨における機能解析を進めてきた。具体的には、関軟軟骨の質量分析やバイオインフォマティクス、遺伝子工学的手法を駆使し、加齢に伴うα-Klothoの発現低下が関節軟骨変性に寄与することを明らかにした。さらに、この加齢に伴うα-Klothoの発現低下は、細胞を取り巻く細胞外基質の物理特性の変化によってDNAメチル基転移酵素が多く動員され、α-Klothoプロモーターメチル化が促進された結果であることも明らかに。これら一連の研究成果は、細胞外基質の物理特性やその機械的シグナル伝達、α-Klothoが軟骨治療の新規治療標的となる可能性を示すものになった。

 

高齢者の認知機能低下に関連する加齢性脳形態変化を報告

ポイント

高齢者では加齢に伴い、「正常圧水頭症様」の脳形態に連続的に変化することが明らかに

さらに、この脳形態変化は脳萎縮と同様に認知機能低下に関連することが明らかとなる

本研究の結果から、老化による脳機能低下を予防する方法の開発につながる可能性がある。

研究の内容

本研究の対象者は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究」(調査期間:2015年11月~2016年3月)に参加した熊本県荒尾市在住の65歳以上の高齢者です。MRIデータを用い、特発性正常圧水頭症で体積変化がみられる、脳室、シルビウス裂、高位円蓋部・正中部のくも膜下腔※ 2の体積を定量化し、認知機能との関連を調べた。

成果

認知症のない高齢者1,356名のデータを解析した結果、脳室、シルビウス裂は加齢に伴い拡大する一方で、高位円蓋部・正中部のくも膜下腔は加齢に伴い縮小傾向を示し、高齢者では、加齢に伴い「正常圧水頭症様」の脳形態に連続的に変化することが明らかになった。さらに、これらの脳形態変化は脳萎縮と同様に、認知機能低下と関連していることが明らかとなった。

 

日本の研究:https://research-er.jp/

 

【情報】筋肉を増やす!

情報】筋肉を増やす!

 

「バーベルを持ち上げる現役経営者の背中」の写真[モデル:鈴木秀]

 

 

●筋肉の役割

筋肉は骨格筋と内臓筋、心筋と分類される。

構造上の分類としては、横紋筋と平滑筋の2つ。

骨格筋や心筋は横紋筋、内臓筋の大半は平滑筋で成り立っている。

 

●骨格筋の役割

運動作用:筋収縮により筋が付着する骨を動かす。筋力の強さは筋断面積の大きさに比例。

姿勢保持:筋収縮により立位姿勢を維持。

熱源作用:筋収縮(熱生産)に使用されるエネルギーの75%以上が熱として放出して、体温を上昇させる。身体全体の熱生産の60%は筋肉によるもの。筋肉量が多ければ基礎代謝が向上して太りにくい身体になる理由が、筋肉の熱源作用によるもの。

ポンプ作用:収縮と弛緩の繰り返しにより、静脈・リンパ管を圧迫して還流を促進します(筋ポンプ)。

筋肉量が少ないと還流が悪くなり、浮腫みの原因や代謝低下の原因に繋がります。

保護:衝撃から骨や内臓を保護。

内分泌:脂肪の分解を促進し脳の神経細胞の減少を抑制する。

 

●筋肉と基礎代謝について

筋肉と脂肪組織(=体脂肪)を比較したときに、1㎏あたり3培近く筋肉の方が代謝が高い。

同じ体重でも、筋肉量が多い方が太りにくい身体、体脂肪が多いと太りやすい身体になりやすい。

更に、筋肉からは脂肪分解を促進させる分泌物が、体脂肪からは脂肪を蓄積させる分泌物(女性ホルモン)が分泌されます。筋肉は脂肪を退かせ、脂肪は脂肪を呼ぶ結果となります。

 

●筋肉が増えるメカニズムについて

筋肉が増えるのは物理的な負荷(=ストレス)への適応反応と言える。

トレーニングの三大原則は、過負荷性、可逆性、特異性

過負荷性:筋トレにおいては筋肉に対して限界を感じる負荷を与える必要がある。

可逆性 :筋肉の成長は筋トレによる負荷への適応反応によるもので、筋トレを中断すると徐々に元に戻るので継続して筋トレを実施する必要がある。

特異性 :鍛えたい部位に応じて適切な種目を選択する必要がある。

※筋肉に与えるストレスについて

筋肉に与えるストレスとしては、物理的なものと化学的なものの2つに分類。

物理的なストレス:バーベルなどの重量の負荷によって筋肉に掛かるストレス

化学的なストレス:筋トレを実施していく中で血中の乳酸濃度が高まったり、酸素濃度が低くなる状態などのストレス。

特に、筋トレの刺激としては物理的かつエキセントリック※なストレスによって効率良く筋肥大(筋肉量の増加)が起きる。

※エキセントリック:負荷を掛けながら筋肉を伸ばす(=伸張)伸張性収縮の刺激。

負荷を掛けながらゆっくりとフルレンジ(最大可動域)でネガティブ動作を実施すると筋肉が成長しやすい。

効果的な運動

BIG3とは、ベンチプレス、スクワット、デッドリフトの3つ。

トレーニングジムにあるような器具を使用なくても3つの動作を行うだけで効果がある。

もし負荷をかけたい場合は、ペットポトルや100円均一などを利用して安価に道具を利用することができる。

 

●栄養面について

筋肥大でまず大切なことは、十分なタンパク質量を摂取すること。

タンパク質は筋肉の材料であり、筋肉量を増やす際は必要量の摂取が必須。

タンパク質は体内で分解されると、タンパク質→ペプチド→アミノ酸へと分解される。必須アミノ酸のロイシンがmTORを活性化して筋肥大を促す。

PFCバランス

Protein(タンパク質)、Fat(脂質)、Carbohydrate(炭水化物)の頭文字をとり、このエネルギー産生栄養素の摂取比率のことをPFC比率という。 理想バランスはP:15%(13-20%)、F :25%(20-30%)、C :60%(50-65%)と言われている。

 

●高齢者の筋力トレーニングの効果

・生活習慣病の予防・改善

 筋力トレーニングはインスリン抵抗性、糖代謝を改善し、糖代謝異常の予防が期待できること、脂質代謝の改善が期待できること、適切な負荷での筋力トレーニングを行うことで血圧や血管への良い影響が期待できること、食事と持久性トレーニングとの組み合わせでメタボリックシンドロームの改善が期待できることが示唆。

サルコペニア・フレイル・ロコモティブシンドロームの予防・改善

 加齢に伴い筋肉が衰えるサルコペニア、加齢による虚弱によって介護が必要となるフレイル、運動器の疾患により日常生活に支障をきたすロコモティブシンドロームは、筋力トレーニングを行い、筋力の向上、筋肉量の増加を促すことが予防、改善に有効。

生活機能の向上

 筋力トレーニングによって、生活に必要な基本的な姿勢の保持、移動能力が向上することで生活機能の向上が望める。

嚥下機能の維持・改善

 筋力トレーニングにより、嚥下に関わる筋力を鍛えることで嚥下機能を維持・改善できる。

腰痛・膝痛の改善

 筋力トレーニングによって筋力が向上し、筋肉量が増えることによって関節への負担が減り、腰痛や膝痛の軽減につながる。

 

 

 

【情報】筋力トレーニングの基礎知識 一筋力に影響する要因と筋力増加のメカニズム―

【情報】筋力トレーニングの基礎知識一筋力に影響する要因と筋力増加のメカニズム―

 

「バーベルトレーニング中の若い男性の様子」の写真[モデル:鈴木秀]

 

 

●筋収縮の分類と筋力測定

運動要素による分類

等尺性収縮:関節の角度あるいは筋の長さが一定

等張性収縮:筋の発生する張力が一定

等速性収縮:筋の収縮速度が一定

収縮要素による分類

等尺性収縮:関節の角度あるいは筋の長さが一定

短縮性収縮:筋が短縮しながら収縮する

伸張性収縮:筋が伸張さされながら収縮する

 

●筋力に影響する要因

筋断面積

筋力と筋の断面積が高い相関を示すとした報告も多く、筋の断面積が大きいほど筋力も大きいといえる。 筋の断面積の測定として最も簡単なのは周径の測定。しかし、皮下脂肪の影響を強く受ける。

神経系による要因

中枢神経系による筋力の調節としては、

①動員する運動単位の種類と総数による調節

運動単位:1つの運動ニューロンおよびそれに支配される筋線維群。

②α運動神経発火頻度による調節

③運動単位の活動時相による調節 の3つの機序により調節される。どんなに大きな断面積を持った筋 でも、この神経系の筋力の調節機構がうまく機能しないと、大きな力を発揮することはできない

筋線維組成

人間の筋線維は次の3つに分類される。

so線維 (タイプⅠ) 短縮速度は遅いが、持久性に優れている。

FG線維 (タイプHb) 速く短縮し、発揮する張力も大きいが、疲労しやすい。

FOG線維 (タイプIIa) FG線維とSO線維の両方の性質を有し、痩縮速度も速く、持久性も高い

解剖学的要因

筋線維の走向方向に基づき、紡錘筋と羽状筋に大きく分類される。

紡錘筋:筋の長軸に対して直角に切断した場合の断面積 (解剖学的断面積)と筋線維の走向に対して直角に切断した場合の断面積 (生理学的断面積)は等しい。筋線維長の側面から両筋をみると、羽状筋よりも紡錘筋のほうが構造を持った筋。また、羽状筋よりも筋収縮速度に優れた構造。

羽状筋:解剖学的断面積よりも 生理学的断面積が大きくなる。筋力は筋の生理学的断面積に比例することを考えれば,羽状筋は高い筋収縮力を発揮。 

関節の角度

実際の臨床の場面では、筋収縮による関節運動が発揮するモーメント(関節トルク)を筋力として測定している。関節トルクは筋の収縮によって発揮される筋張力とモーメントアームの積によって決定される。したがって、筋の付着部が関節の回転中心から遠い関節ではモーメントアームは大きくなり、同じ筋張力でも大きな関節トルクを発生することができる。また、関節の屈曲角度が変化することでモーメントアームと筋長がともに変化するため、関節トルクも屈曲角度の影響を受ける。

心理的要因

筋力にはその構造的要素によって決定される生理的限界がある。通常は高位中枢からの抑制により、最大努力下においても生理的限界まで筋力を発揮することはなく、これを心理的限界と呼び生理的限界の70~80%とされている。

 

●筋力トレーニングの原則

筋力トレーニングを行う場合に重要な原則として最も一般的なものに過負荷の原則がある。

過負荷の原則:負荷強度が通常用いているものより強くなければ、身体の適応性を利用して筋力向上を期待することができない。一般的には最大筋力の2/3以上の強度で筋力トレーニングすることが必要。

特異性の原則:ある種の能力は同類の運動を用いたトレーニングによって効果的に高められる。特異性の原則について3つに分けて以下説明。

筋の収縮様式による特異性等尺性,求心性,遠心性,等張性,等速性で行われた訓練は同じ収縮様式において最も増強効果が高い。

負荷様式の特異性最大負荷では最大筋力、負荷なしでは最大収縮速度、負荷30%では最大パワーのへ効果が高い。

関節角度の特異性特定の角度で行われた訓練では、その角度における増強効果が最も高い。

などがある。筋力増強訓練を行う場合には、これらの原則を考慮し、期待する増強効果に対して最も効率的な訓練処方を検討する必要がある。

 

●筋力増強の機序

神経性要因

筋力増強訓練が適切な条件下で継続されれば、発揮される最大筋力は経時的に増加する。

訓練開始から約4週間以内の初期にみられる最大筋力の増加は、筋肥大を伴わないことが報告されており、結果として単位断面積あたりの筋力が増加する。その機序としては主に中枢神経系要因の改善によってもたらされるとされている。つまり運動単位数の増加、発火頻度の増加・同期化、拮抗筋の抑制、運動プログラムの改善などが関与している.

筋肥大のメカニズム

筋線維数の増加は胎生期までにほぼ終了するとされており、筋力増強訓練で生じる筋肥大は筋線維の断面積が増大したものである。筋線維の断面積増加は、それを構成する筋タンパクの合成が分解を上回った結果生じる

筋タンパク合成の制御には主にインスリン様増殖因子I(IGF-I)が重要な働きをしていることが知られている。血液中のIGF-I が筋細胞膜の表面にあるレセプターに結合することにより、細胞内のシグナル分子が活性化されタンパク合成が促進される。筋力増強訓練によってもたらされる機械的ストレスは筋細胞膜上のメカノセンサーを活性化し、細胞膜のCa チャンネルを変化させる。流入したCaイオンは細胞内のCa依存性シグナル伝達を活発にして筋タンパク合成を促進する。

 

【文献】最新の文献・研究を読んでみた⑨

【文献】最新の文献・研究を読んでみた⑨

 

「会議中に疲労感で居眠りそうな管理職の男性」の写真[モデル:高木桂一]

 

 

くも膜下出血後早期における病態を解明

本研究グループは、くも膜下出血発症直後における交感神経系の過活動が神経学的予後に影響していることを明らかに。

【研究の背景】

脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は,脳内出血や脳梗塞と比較して若年で発症し、生命を脅かす疾患。発症時のみならず、その後約 2 週間の病態が神経学的予後に重要な役割を果たすことが知られているが、そのメカニズムはいまだ解明されていない。そのような中、近年では早期脳損傷という概念が多くの研究者の関心を集めている

早期脳損傷は、くも膜下出血発症直後に起こる病態で、これがその後約 2 週間の病態ならびに最終的な予後に直結すると考えられる。これまでさまざまな研究が行われてきたが、患者さんの予後に改善は得られていないのが現状。

くも膜下出血の発症直後には、交感神経系の過活動が頭蓋内だけでなく全身に起こることが知られている。また、発症直後の脳血流の低下が予後の悪化につながることも報告。しかし、この脳血流の低下の原因について解明する研究はこれまでほとんど行われていない。そこで、我々はくも膜下出血発症直後の脳血流の低下に交感神経系が関わるのではと考えた。

【研究成果の概要】

金沢大学附属病院でくも膜下出血に対して治療を行った患者さんのデータの解析に加え、マウスにくも膜下出血を引き起こしたモデルを用いることで、脳血流の低下と交感神経系の関連、およびそれらが、くも膜下出血の予後に与える影響を解析。その結果、くも膜下出血発症直後に起こった交感神経系の過活動が頚部の交感神経節の一つ、上頚神経節を介して脳血流の低下を引き起こし予後に悪影響を及ぼすことが明らかに

まず、患者さんのデータの中でくも膜下出血発症後に行う検査の一つである脳血管撮影での脳血流障害を比較。その結果、退院時の神経障害が重度の患者さんでは、より軽度の障害だった患者さんと比較して、発症後急性期の脳血流障害が顕著に表れた。また、全身に及ぶ交感神経系の影響のうち、心臓への影響を心電図で評価したところ、交感神経の過活動による心電図変化が見られた患者さんで脳血流の重度な障害が確認された

 一方、くも膜下出血を引き起こしたマウスの脳血流を分析すると、くも膜下出血発症直後では脳への血流が十分に行き届いていない結果が得られた。そこで、脳血管の収縮機能に関連すると報告されている頚部の交感神経節の一つ、上頚神経節をあらかじめ取り除いたマウスで同様にくも膜下出血を引き起した。その結果、頚部の交感神経節のないマウスでは脳血流の顕著な改善がみられた。さらに、その後のマウスの神経障害も抑えられた。

 

日常的な農薬摂取が及ぼす腸内環境への影響をヒトで確認

ポイント

一般生活者の日常的な農薬曝露と腸内環境の関係をヒトで初めて調査した。

有機リン系殺虫剤の曝露量が増加するに従い、腸内細菌によって産生される短鎖脂肪酸の一種である酢酸の存在量が低下する傾向にあった。

大腸における酢酸の役割には、腸管感染防御作用が知られている。

研究成果

便中酢酸濃度低下の機序として、酢酸を産生する腸内細菌組成割合を確認したが、OP曝露との関連性はなかった。酢酸はビフィズス菌など多くの細菌が産生するため、その絶対的な細菌数の減少も考えられるが、本研究では検討できなかった

一部のOPは微生物活性や脂肪酸代謝に関連する酵素活性を抑制するとの報告があるため、これが便中酢酸濃度低下に関与している可能性があるが、いずれも推測の域。

今後の展開

本研究成果は、機序を明らかにすることはできなかったが、日常的な有機リン系殺虫剤の曝露が、腸管免疫制御などに寄与している便中酢酸濃度に影響することを、尿の高感度化学分析を用いることにより疫学的に示唆することができた最初の調査となった

ヒトの腸内環境が宿主に長期的な影響を与えることを考えると、今後は子供や妊婦を含むより広い年齢層を対象とした研究が必要であり、別集団を対象とした本研究結果の再現性確認や、実験的アプローチによる機序解明が急がれる。

 

日本の研究:https://research-er.jp/

 

 

 

【文献】最新の文献・研究を読んでみた⑧

【文献】最新の文献・研究を読んでみた⑧

 

「豪華なゲル内の椅子で書籍を読むM&Aアドバイザー」の写真[モデル:野崎繁裕]

 

 

何がリハビリテーションに対する患者の意欲を高めるのか? ~患者・医療者間の意見の一致と相違~

ポイント

多施設アンケート調査により「リハビリテーション意欲を高める動機づけ要因」について患者・医療者の意見の共通点と相違点を明らかに。

最も多く支持された動機づけ要因トップ 3 は患者・医療者間で共通しており、

  • 「回復の実感」
  • 「明確な目標の設定」
  • 患者の生活に関係のある訓練」

患者は意見の個人差が大きく、患者の好みに沿った動機づけの重要性が示唆。

本研究成果は、リハビリテーションにおける「根拠に基づいた実践: Evidence-Based Practice」と「患者中心ケア: Patient-Centered Care」の発展に寄与する学術知見である。

結果

調査の結果、患者群と医療者群の双方でそれぞれ最も多くの対象者に選択された動機づけ要因トップ 3 は両群で共通しており、「回復の実感」、「明確な目標の設定」、「患者の生活に関係する訓練」でした。

※他の情報からリハビリテーションに対する意欲を高めるかは、医療者よりも患者間の個人差が大きいことが分かった。

考察

「回復の実感」、「明確な目標の設定」、「患者の生活に関係する訓練」は、これまでも患者の動機づけにおいて大切と考えられてきたが、今回の調査結果は患者・医療者双方の視点からみてもそれらの要因が特に重要であることを定量的に示した。

一方、医療者よりも患者の方が重要と考える要因については個人差があり、より多様な要因が選ばれた。これらの研究結果は、リハビリテーションにおける動機づけ方略を考える際に、医療者は双方から支持される中核的な動機づけ要因に加えて、患者背景や個々の患者の好みも考慮すべきであることを示唆。本研究成果は、患者の動機づけに難しさを感じているリハビリテーション医療従事者、特に臨床経験年数の浅い医療者にとっては有益な情報になると考えられる。

 

温泉は「よく眠れる」ことを証明!?

ポイント

本研究グループは、温泉に入ると本当に良く眠れるのか、塩化物泉と炭酸泉について、簡易脳波計と深部体温計を使って実験。

その結果、入浴したときの方が、入浴しなかったときよりもよく眠れており、特に温泉、ここでは秋田温泉さとみ( 塩化物泉)と人工炭酸泉に入ったときに深く眠れていた

その理由として、同じ温度のお湯でも塩分や炭酸ガスによる加熱作用の強い温泉に入ったときには、熱の取り込みが大きく、入浴後に深部体温が大きく上昇。また、深部体温の上昇が強いと、その反動で放熱が進み、入浴後90分後には深部体温が入浴しない時に比べて下がった。深部体温の下降は眠気や熟眠をもたらすことがわかっているため、温泉浴でより深い睡眠が出現したと思われる。

研究成果

【結果】

入浴により深部体温は有意に上昇し、その後就寝時まで顕著に低下。入浴による睡眠の変化は、上昇した深部体温の大幅な低下放熱と関連。人工炭酸泉と塩化物泉のグループでは、熱放散の増加と深部体温の低下が観察された。

【結論】

塩化物泉と人工炭酸泉では、普通浴条件や入浴なし条件で観察されたものと比較して、最初の睡眠周期中のデルタパワーが増加しており、深い睡眠が記録された。塩化物泉は入浴後に疲労感が認められたため、虚弱な高齢者には人工炭酸泉が最適であると考えられる

 

記事:https://research-er.jp/search

 

 

 

【文献】最新の文献・研究を読んでみた⑦

【文献】最新の文献・研究を読んでみた⑦

 

「真剣な表情で資料を読み込む女性の姿」の写真[モデル:SAKI]

 

 

日本発、歩行リハビリテーションの未来への一歩 パーキンソン病に新たな光明

本研究では、これまで有効な介入手段のなかったパーキンソン病患者の歩行障害に対して、脳の外部から微弱な電流を流すことで脳活動を調整し、歩行機能を改善できることを報告。

研究のポイント

パーキンソン病患者の歩行障害に対する新しい歩行リハとして、個別化されたクローズドループ脳電気刺激法を開発し、その効果を検証した。

介入群では、歩行速度や歩行の対称性、すくみ足の程度などの歩行指標において、対照群と比較して有意な改善が示された。

研究の意義と今後の展開や社会的意義など

本研究は、従来の治療では効果が限定的であったパーキンソン病患者の歩行障害に対して、個別の歩行パターンに合わせた(クローズドループ)脳電気刺激が効果的である可能性を示した。このシステムは、非侵襲・非薬物で安全性が高く、臨床応用が期待されている。

今後の更なる研究の進展により、効果的な歩行リハの開発につながり、パーキンソン病患者の生活の質の向上や自立支援に貢献することが期待される。

 

パーキンソン病病原タンパク質の受容体を特定 〜病態メカニズムの解明、進行抑制治療開発に期待〜

ポイント

パーキンソン病の原因タンパク質である凝集αシヌクレインが細胞表面から細胞内へ取り込まれる際の受容体として、ソーティリンを新たに同定

ソーティリンは、患者脳内のαシヌクレイン蓄積物に検出され、ソーティリン発現抑制・抗ソーティリン抗体の投与により、凝集αシヌクレインの神経細胞への取り込みや蓄積が抑制されることを明らかに。

研究の背景

パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患患者の脳内では、各々の疾患に特有の異常凝集タンパク質が検出され、病態の主役と考えられている。これらの凝集タンパク質は神経細胞間を伝播し、周辺細胞へと病変を拡大させ、病態を進行させると推定。凝集タンパク質が細胞内へ侵入するルートとして複数の可能性が考えられるが、中でも、エンドサイトーシスが注目。パーキンソン病においては、複数の膜タンパク質が凝集αシヌクレインのエンドサイトーシス受容体として報告。一方、そのほとんどは網羅的探索で見いだされたものではなく、神経細胞で発現が認められない等の問題があった。

今後の展開

今回、凝集αシヌクレインの細胞への取り込みを担う受容体としてソーティリンが同定されたことで、これらの疾患の病態解明が進むと同時に、凝集タンパクの伝播阻止に立脚した新たな進行抑制治療開発への道が開かれることが期待。

 

血圧、喫煙、飲酒が都道府県の平均寿命の説明因子

ポイント

厚労省の大規模公開データ(NDB open)による全国2,700万人余りのデータを用いて喫煙者割合と平均寿命、全死因による死亡率、がんによる死亡率との関連を都道府県単位で検討。その結果、現在喫煙している人の割合が多い都道府県ほど平均寿命が短く、全死因による死亡率・がんによる死亡率ともに高いことが分かった

「現在喫煙」、「血圧高値者」、「過剰飲酒者」の3要因で、平均寿命の都道府県格差の31~45%が説明できることも明らかになり、喫煙・高血圧・過剰飲酒の改善が平均寿命の延伸に重要であることが示唆された。

研究結果

現在喫煙している人の割合が多い都道府県ほど平均寿命が短く、全死因による死亡率・がんによる死亡率ともに高いことが分かった。なお、「血圧高値」や「過剰飲酒」の要因を加味しても喫煙は平均寿命に悪影響を及ぼしている。さらに都道府県の平均寿命の格差(平均寿命のばらつき)のうち31%(女性)~45%(男性)が「喫煙」、「血圧高値(収縮期血圧≧140mmHg)」、「過剰飲酒(一日あたり純アルコール換算:男≧2合、女≧1合)」の3つの要因で説明できることが分かった。

 

記事:https://research-er.jp/search

 

 

【文献】最新の文献・研究を読んでみた⑥

【文献】最新の文献・研究を読んでみた⑥

 

「真剣にキーボードをたたく女性講師」の写真[モデル:SAKI]

 

 

うつ病、不安症患者さんに対する マインドフルネス瞑想を組み込んだ作業療法の効果を検証

ポイント

マインドフルネス瞑想を組み込んだ作業療法プログラムについての初めてのランダム化比較試験

本プログラムが上記患者さんのパーソナルリカバリーに寄与する可能性が示唆された

社会的・職業的機能の改善が難しい患者さんに対して、有効な治療の選択肢となる可能性

研究の成果

本研究は、マインドフルネス瞑想を組み込んだ作業療法プログラムについての初めてのランダム化比較試験であり、うつ病と不安症のパーソナルリカバリーの改善にそのプログラムの有用性が示されました。また、その効果は定量脳波解析によっても裏付けられました。薬物療法などの生物学的治療だけでは十分なパーソナルリカバリーに至らない患者さんにとって、マインドフルネス瞑想を組み込んだ作業療法プログラムは、プログラムのアクセシビリティの観点も含めて、念頭に置くべき選択肢の一つになると考えられます。

用語説明

1:マインドフルネス

第3世代の認知行動療法と呼ばれることもある、「今、ここ」に注意を向け価値判断せず、あるがままを受け入れる姿勢を養う。

2:パーソナルリカバリー

病気や障害を受容し新たな人生の意味や目的を見出し充実した生活を送る過程

 

肥満がインスリン分泌細胞の機能を低下させる仕組みを解明

ポイント

本研究グループは、従来から、 代謝産物の質や量を感知するセンサー分子 CtBP2 タンパク質の肥満や代謝での役割に注目。

今回、肥満によって膵β細胞に生じる酸化ストレスによってCtBP2 タンパク質が壊されてしまうこと、それによって膵β細胞の機能が維持できなくなり、 インスリン分泌低下や糖尿病をもたらすこと、を明らかに。

本研究成果は、これまでの研究と合わせて、 CtBP2 が肥満で機能しなくなることが、 メタボリックシンドロームの発症やその病態に重要な役割を果たしていることを示しており、 肥満に関連する疾患治療への応用が期待される。

研究ポイント

さまざまな肥満モデルマウスにおいて、膵β細胞での CtBP2 は顕著に低下しており、ヒトの肥満者(脳死ドナーの検体) でも CBP2 発現量が低下していることが観察された。

膵β細胞は酸化ストレスの消去能が他の細胞に比して弱いことが知られており、肥満によって生じる酸化ストレスによってCtBP2 はユビキチン修飾を受け分解されるために、発現量が低下するという仕組みが明らかになった。さらに、膵β細胞特異的に CtBP2 遺伝子を欠損させたマウスでは、 胎生期から欠損させても生後に欠損させてもインスリン分泌低下型の糖尿病を示した。

以上のことから、長期の肥満経過における膵β細胞機能低下および糖尿病の発症のプロセスは、 ① 肥満によってCtBP2量が低下する、②インスリン分泌が低下する、③糖尿病を発症する、 という CtBP2 を中心とした分子メカニズムで説明できると考えられる。

 

加齢で神経細胞の形が変化し、それが統合失調症では逆方向であることを発見 ~脳の老化と、統合失調症との関係~

ポイント

ヒト脳の神経細胞の3D構造を、日米の放射光施設でナノCT法により解析。

神経突起の曲がり方(曲率)が、健康な場合は加齢により変化していた。

一方で統合失調症では、そこから大きく逸脱し、加齢とは逆方向の変化を示した。

神経突起の曲率は統合失調症で60%高く、幻聴スコアと強い相関を示した。

神経突起を太くまっすぐにすることで、精神症状を改善できる可能性がある

 

記事:https://research-er.jp/search

 

 

【文献】最新の文献・研究を読んでみた⑤

【文献】最新の文献・研究を読んでみた⑤

 

 

 

「生活を楽しんでいる意識」が要介護認知症リスクを抑制する ― 国内地域住民の約11年にわたる大規模観察研究で明らかに―

ポイント

生活を楽しんでいる意識についての回答と介護保険認定情報から把握した認知症の情報が得られた約3万9000人について、約11年観察を行った結果、その内の4,642人が認知症と診断されていた

生活を楽しんでいる意識が高いと、要介護認知症リスクが低いことを明らかにした

今後の展開 

今回の研究結果は、自覚的ストレスをコントロールしながら生活を楽しんでいる意識を持つことで、将来の認知症の発症予防に重要であることを強調するもの。

今回の研究の限界として、調査開始時点で認知機能や認知症の既往が把握できていなかったこと、認知症の分類は把握していないこと、収入レベルなどの情報が考慮できなかったこと、今回調査した生活を楽しんでいる意識は心理的ウェルビーイングを大まかに把握するものにとどまるために認知症予防のための具体的な行動を特定することが難しいことが挙げられ、今後さらなる研究が必要。

 

骨格筋はわずかな温度の変化を敏感に感じてパフォーマンスを向上させる! ~ウォーミングアップの効果をタンパク質レベルで解明~

ポイント

今回の結果は、骨格筋の 2つの役割である筋収縮と熱産生の相乗効果を明らかにしたもの。

運動前のウォーミングアップは、細いフィラメントを活性化することで筋肉のパフォーマンスを高めている、と考えることができる。また、熱中症などの高体温時には細いフィラメントが活性化し過ぎてしまい、骨格筋の熱産生が上がることで、さらなる体温上昇を起こしてしまう可能性も考えられる。

本研究成果の意義

本共同研究グループは、私たちヒトを含め、生き物の内部で産生される熱に着目。産生された熱が環境へ散逸する過程では、体温が上昇するだけでなく、もしかすると細胞内の様々なシステムに影響し、システムの働きを補助したり、制御しているのではないかという仮説を立て、これを実験的に検証する研究を進めてきた。そして、この隠された熱の役割を「熱(サーマル)シグナリング」と呼ぶことを提案している。より大きなスケールにおいて、生き物が知覚する環境温度への応答が「温度シグナリング」と呼ばれるのと、対になる言葉。筋肉は、収縮と熱産生の 2つの機能を含む、特殊な臓器と言える

今回の発見から、筋肉の 2つの機能が、細胞という微小な領域において、「熱シグナリング」を介して密接に結びついていることが、再確認された。

これまで「電気刺激→Ca2+シグナル→筋収縮」の仕組みを活かした医療機器開発や筋トレーニング・リハビリテーションの技術開発が進んだように、本成果は「熱シグナル→筋収縮」に基づいた新しい温熱療法、健康医療のための技術開発の扉を開くことが期待される。

 

世界で初めてうつ病における miRNA と mtDNA との関連を示す

ポイント

うつ病患者の血中miRNAがmtDNAと関連

治療前の血中miRNA の評価により抗うつ薬治療の治療効果予測に貢献。

うつ病の新たなる病態メカニズムの解明や治療法に繋がる可能性

用語説明

1:miRNA(microRNA)

ノンコーディング RNA※1-2の一種。相同性のある mRNA※1-3に結合し、翻訳阻害や mRNA分解をすることで遺伝子の発現を制御。

1-2:RNA(Ribonucleic acid:リボ核酸)

RNA は DNA と同じ核酸で、転写により一部の DNA 配列を鋳型として合成される。DNAが2本鎖の塩基配列であるのに対しRNAは1本鎖。翻訳※1-4されるかどうかで大きく2種類に分けられ、翻訳を受けるRNAからは、タンパク質が合成。翻訳を受けないRNAを総称してノンコーディング RNA と呼び、miRNAはノンコーディング RNA に分類される。

1-3:mRNA(messenger RNA)

DNA 配列を鋳型として合成されたRNAのうち、タンパク質を合成する際の遺伝情報(アミノ酸配列)を伝える役割をするもの。

1-4:翻訳(messenger RNA)

mRNA を鋳型としてタンパク質がつくられる段階を翻訳と。

2:mtDNA(mitochondrial DNA:ミトコンドリア DNA)

環状構造を持った DNA※2-2であり、母親から子供へと継承される母系遺伝として知られる。ミトコンドリアがエネルギー産生に関与するために必要な遺伝子が含まれる。

本研究の成果

本研究により、うつ病のmiRNAとmtDNAを介した新たな病態機序の解明とそれらを用いて薬剤選択を行うなどの臨床応用に繋がる可能性がある。また、miRNA が標的とする候補物質を特定することで既存薬を転用して新たな疾患の治療薬として開発するドラッグリポジショニングやmiRNAの機能を調整する新規治療薬の開発に繋がることが期待。

 

記事:https://research-er.jp/search

 

【文献】最新の文献・研究を読んでみた④

【文献】最新の文献・研究を読んでみた④

 

「古びた洋書と鍵の束」の写真

 

 

 

“適度な運動”が高血圧を改善するメカニズムをラットとヒトで解明 〜頭の上下動による脳への物理的衝撃が好影響〜

ヒトでの検証結果

ヒトにおける適度な運動の典型である“軽いジョギング”あるいは“速歩き”でも、足の着地時に頭部に 1 Gの衝撃が上下方向に加わることが分かった

座面が上下動することで、1G の上下方向の衝撃がヒトの頭部に加わるように設計された椅子に1日 30分間・1週間に3日・1ヶ月間(4.5 週間)搭乗すると、高血圧改善効果、交感神経活性抑制効果が認められた

1週間に 3日・1ヶ月間の上下動椅子搭乗期間の終了後も、約1 ヶ月間は高血圧改善効果が持続した。

 

太りやすい理由 生理・病態・環境・ホルモン・遺伝子などの影響を一つの因子で説明!

ポイント

ヒートショックプロテインHSP47の発現は脂肪組織に高く、体脂肪量と相関する。

HSP47は食事、運動、ホルモンなどにより制御される。

HSP47はコラーゲンのフォールディング・分泌に必須の因子であり、HSP47の欠損や活性阻害によって細胞接着シグナルが阻害され、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体PPARγタンパクの安定性が低下することで、脂肪量が減少する。

研究の成果

体脂肪量は生理・病態・環境・ホルモン・遺伝子など様々な要因に影響を受け、個人差が大きい。

本研究では、脂肪組織に発現するHSP47が体脂肪量を規定する重要な因子であることを明らかにした。HSP47の発現は摂食、過食、肥満により増加し、断食、運動、カロリー制限、バリアトリック手術、およびカへキシアにより減少することが知られている。さらに、HSP47は様々な体脂肪の指標(体脂肪量、BMI、ウエストおよびヒップの周囲径など)と有意に相関し、インスリンおよびグルココルチコイドによって調節されていた。また、SNP解析によるHSP47遺伝子発現量は、体脂肪量と相関を示した。

メカニズムとして、HSP47の欠損や阻害によってコラーゲンタンパクの動態(折りたたみ、分泌、およびインテグリンとの相互作用)が障害され、PPARγタンパクが減少することで、脂肪組織が萎縮することが分かった。

バリアトリック手術:胃や小腸に外科的処置を施すことで摂食量を制限したり栄養吸収を抑える手術。

カへキシア:悪液質。消耗性疾患が原因となり、食欲不振と代謝調節機構の障害による重度の骨格筋の萎縮と臓器の機能不全の病態。

 

「意欲」を「運動する力」に繋げている中脳皮質経路

ポイント

ドーパミン細胞が集まる腹側中脳と運動関連領野を結ぶ中脳皮質系が、意欲を発揮する力へと繋げる役割を担うことを見出した。

意欲が高いほど運動を準備している際に中脳皮質系が強く賦活し、運動した際に意図せずとも強い力を発揮させることがわかった。

この研究成果が社会に与える影響

中脳皮質系が意図しない力の強さと関連するという発見は、意欲などの心の有り様が意図せず強い力を発揮させる「火事場の馬鹿力」の神経経路を明らかになった。

本研究で得られた知見は、運動パフォーマンス向上を目的とするスポーツ選手の競技力向上を目的としたメンタルトレーニングの提案につながる。また、活動したいという意欲が低下してしまう気分障害や気分障害と運動障害を併発するパーキンソン病での症状理解や新たな治療戦略の開発につながることが期待できる。

 

日本の研究:https://research-er.jp/

 

【文献】最新の文献・研究を読んでみた③

【文献】最新の文献・研究を読んでみた③

 

「本を読みながら考えことをする男性」の写真[モデル:大川竜弥]

 

 

統合失調症の社会機能障害に関わる脳内ネットワークの異常が明らかに!-視聴覚統合に関わる機能的結合が統合失調症者で低下していることを発見-

統合失調症において、左半球の外側溝後枝や右半球の紡錘状回といった視聴覚を統合する脳内ネットワークの活動に異常が見られることを発見

声や顔の視聴覚統合に関わる脳内ネットワークの異常と、統合失調症者の抱える陰性症状を背景とした社会機能障が強く関連していることを見出した。

※外側溝後枝:別名シルビウス溝(外側溝)。機能的言語ネットワークに関与。

※紡錘状回:側頭葉の脳回。紡錘状回は後頭側頭回と呼ばれることもある。視覚や聴覚などの認知機能や記憶の中枢。 側頭葉に特異的な主な機能は、聴覚情報処理・意味処理・記憶に関連する処理を行う。

 

 

亜急性期脳卒中患者における両半球への経頭蓋直流刺激が上肢機能に及ぼす影響:症例研究~ニューロリハビリテーション研究センター

本研究のポイント

上肢遠位に重度運動麻痺を有する脳卒中者1名を対象に、両側の一次運動野への経頭蓋直流電気刺激(tDCSを)併用したトレーニングを実施。

両側の一次運動野へのtDCSでは、筋活動や皮質脊髄路の興奮性を高め、過剰な同時収縮も抑制された。

両側の一次運動野へのtDCSを併用した上肢機能訓練を行うことで、運動学的及び神経学的に良好な変化をもたらすことが示唆された。

 

足の健康度は転倒リスクの高い患者における入院中の転倒発生を予測する ~下肢筋力、バランス能力、歩行能力の総合的な下肢機能評価が重要~

ポイント

・転倒発生数が多い病棟に入院した患者において、下肢機能低下は入院中の転倒発生リスクを上昇する要因であった。

・下肢機能が正常な患者と比較して、下肢機能低下が重度な患者の転倒リスクは 8.8 倍であった。

・下肢機能を客観的に評価することは、転倒リスクの高い患者の入院後経過の予測に重要である。

 

5年以内のフレイル発生リスクが40%低減! “要支援”高齢者の通所系サービス利用効果を実証

ポイント

・“要支援”の新規認定者に特化した調査を実施。

通所系サービスの利用によりフレイル発生リスクが40%低減したことが明らかに

・フレイルは健常状態に戻る可能性があり、適切な支援等が重要。

期待される効果・今後の展開

本研究では、要支援高齢者が通所系サービスを利用することにより、フレイル発生リスクの低減効果があることを明らかに。これは、高齢者が要支援 1 または要支援 2 と認定された時点で、通所系サービスや通所系サービスに相当する外出を高齢者に勧めることが大切であることを示唆している。感染予防対策とバランスをとりながら、高齢者の通所や外出を促す環境づくりや高齢者・家族への適切な意識づくりを働きかけていくことが重要。

 

 

作業療法で用いられている集団作業の効果を実証 ~2人で場を共有して個人作業をすると緊張が緩和~

ポイント

・作業療法で用いられている集団や手工芸活動などの治療効果を、脳波による「集中」の指標と心電図による「自律神経活動」の指標で分析。

2 人で場を共有した各自の手工芸活動時に、副交感神経が有意に高まることが明らかに

・2 人(各自の作業/非作業者は観察者)の手工芸活動時、Fmθの脳波出現者は副交感神経活動が有意に高まることが明らかに。

※Fmθ:特異な脳波活動。前頭正中部に数秒程度連続するθ波(徐波の一種)。特異なのは、徐波なのに正常脳波であることと、注意集中で誘発されること。

期待される効果・今後の展開

作業療法において並行条件を設定することはリラックスの観点で有効である可能性を示した。

臨床現場において緊張や不安が強い対象者への作業療法では、並行条件を設定することがそれらの軽減に効果を有する可能性を示唆。

今後は精神疾患を有する方を対象として、また 3人以上の集団での実験など、集団で作業療法を実施することの効果をさらに検討し、対象者の特性に応じた手工芸や集団の提供方法を具体化していく。

 

日本の研究:https://research-er.jp/