【介護】運動と認知症の関係~運動しよう~
歩行機能と認知機能
文献①
歩行速度が遅く、歩行の空間的・時間的ばらつきが大きい者ほど認知症リスクが高いと言われている。
文献②
高齢者の認知機能と歩行機能を調べた研究によると、歩行速度低下は認知機能低下を強く予測する一方で、認知機能低下はそれ以後の歩行機能低下にはあまり関連しなかったという研究があり、歩行機能低下が認知機能低下の前駆症状である可能性を示している。
文献③
認知検査の結果から四分位範囲で被験者を分け各集団の歩行速度の変化を調べた研究では、認知検査の得点が低い集団ほどその後の歩行速度の低下が激しいことを明らかにしている。
身体活動と認知機能低下
最近では、身体活動の低下は認知機能低下の危険因子と考えられてきており、認知症の発症にも強く関連していることも報告されている。
運動習慣がない者(運動習慣が週1回未満)に比べ、「週に1回以上」の運動習慣がある者では40%ほどアルツハイマー型認知症のリスクが低かったことを明らかにしている。このような身体活動量と認知機能の関連は特定の運動に限定されるわけではなく、家事やちょっとした移動も含めた「1日の総活動量」が重要であることが示唆されている。
※ 1 日の総活動量が多い上位 10%に比べ,下位 10%の集団では5年後の認知症の発症率がおよそ 2~3 倍高い。
正常範囲の加齢に伴う認知機能低下と認知症の中間症状を軽度認知機能障害(以下MCI)という。この MCIは、年間約5~15%が認知症を発症する高認知症リスク群であると考えられている
身体活動量レベルが高い者(スポーツ、ウォーキング、旅行・ 長い距離の外出、ガーデニングの頻度身体活動量レベルを定義)ほど、MCI から認知症に移行するリスクが低い。
※身体活動量が最低レベルの者と最高レベルの物と比べると約60%近くリスクが軽減されるという報告あり。
身体活動への介入が認知機能に与える影響
多くの研究で運動介入により認知機能の改善効果があるとの報告がある。そのほとんどはウォーキングを用いたもので、非認知症高齢者と認知症高齢者の両者において認知機能の改善が認められている。
研究では、ウォーキング群に有意な海馬容量の増加も認められており、有酸素運動が中枢神経系の構造変化を引き起こし、認知機能を改善していることを示している。
運動による効果
・認知機能改善効果は有酸素運動に伴う脳血流量の改善。
・運動反応性の神経栄養因子やマイオカインの増加。
・酸化ストレスの低下
・運動を通じた抑うつの予防・軽減
・睡眠の改善
・認知機能低下リスクとなる疾病(高血圧,脳血管疾患,糖尿病など)の予防・症状改善
など、運動が認知機能改善に及ぼす影響とされている。
※ただし、認知機能低下が見られる高齢者や軽度から中等度の認知症高齢者を対象とした介入研究では、運動が認知機能改善に及ぼす効果は小さいと結論づけるものが少なくないのも事実であり、運動の認知機能に対する影響は認知機能低下の進行状況が関連している可能性が大きい。
アルツハイマー型認知症患者を対象とした治験
認知症症状の改善薬であるドネペジル塩酸塩やメマンチン塩酸塩によって認知機能のみならず歩行機能の改善も概ね認められている。
①ドネペジル塩酸塩
アセチルコリンを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼの働きを阻害し、脳内のアセチルコリンを増加させ、アセチルコリン系の神経活動を高める結果、記憶障害をはじめとする認知症の関連症状が改善する。
②メマンチン塩酸塩
認知症症状に伴い脳内に過剰に出現する神経伝達物質であるグルタミン酸を抑制し、グルタミン酸神経系の機能の正常化から認知症の関連症状の改善を図る。このような神経伝達システムは運動制御にも影響を与える。
運動と認知症 桜井良太 バイオフィードバック研究・2022 年・49 巻・第 2 号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjbf/49/2/49_59/_pdf