疼痛とリハビリテーション医療

リハビリテーション治療において、痛みはしばしば阻害因子となります。急性期の痛み、術後の痛み、中枢神経由来の痛み(視床痛、神経障害性疼痛)、痙縮による痛み、がんの痛み、不動による痛みなどが挙げられます。一方で、リハビリテーション治療自体が痛みの緩和や予防に繋がることも少なくありません。
リハビリテーション診療で遭遇する痛みと対策
疾患・外傷の急性期や術後の痛み: 以前は急性期を過ぎてからリハビリが開始されることが多かったですが、現在では早期からの介入が予後を最良にする上で重要とされています。薬物療法に加え、疼痛が軽減する姿勢を見つけ、早期離床を進めることが痛みの軽減に繋がります。
中枢神経由来の痛み(視床痛、神経障害性疼痛): 脳血管障害などによる視床痛は薬剤抵抗性の強い痛みを呈し、脊椎脊髄疾患では侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛が混在することもあります。プレガバリンなどの薬物療法が用いられます。
痙縮による痛み: 脳血管障害や脊髄損傷などによる痙縮は、異常肢位や不随意運動、絞扼感、運動時痛の原因となります。運動障害を来たすほどの痙縮にはボツリヌス療法が広く行われ、下肢筋に広範な痙縮がある場合はバクロフェン髄注療法が行われることもあります。
がんの痛み: がん患者に対するリハビリテーションは、筋力や体力の維持だけでなく精神心理面でも有用です。2010年度から「がん患者リハビリテーション料」が新設され、2020年度の診療報酬改定でがんの種別制限がなくなり、進行がんや末期がん患者も対象となりました。転移性骨腫瘍の患者は痛みとともに骨折リスクに注意が必要です。
不動による痛み: 不動は筋量・筋力の低下、関節や筋の硬化など、様々な廃用症候群を引き起こします。不動によって痛覚閾値が低下することが報告されており、疾患・外傷の急性期や術後の安静が痛みの原因となる病態形成に影響を及ぼすと考えられています。
痛みの治療手段としてのリハビリテーション治療
「慢性疼痛診療ガイドライン」(2021年)に基づき、リハビリテーション治療の有効性が検証されています。
一般的な運動療法は慢性疼痛に有用か?
有酸素運動や筋力増強運動などの一般的な運動療法は、慢性腰痛、慢性頚部痛、変形性膝関節症などにおいて高い鎮痛効果と機能障害の改善効果が認められ、強く推奨されています(推奨度1)。ただし、単独ではQOL向上は難しく、薬物療法や行動医学的アプローチとの併用が必要です。
神経科学に基づくニューロリハビリテーションは慢性疼痛に有用か?
運動系へのニューロリハビリテーションは、慢性疼痛やがん性疼痛に対して施行することが弱く推奨されています(推奨度2)。
認知行動療法、患者教育、作業療法を組み合わせた運動療法は慢性疼痛に有用か?
認知行動療法と患者教育を組み合わせた運動療法は、運動器の慢性疼痛に対して強く推奨されています(推奨度1)。作業療法と社会的アプローチを組み合わせた運動療法は、弱く推奨されています(推奨度2)。
物理療法は慢性疼痛に有用か?
電気、超短波、レーザー、寒冷などの物理療法は、即時的な効果を認めることがありますが、慢性疼痛に対しては有用性を示すエビデンスが不足しており、推奨されていません。
徒手療法は慢性疼痛に有用か?
筋緊張亢進などに対する徒手療法も、慢性疼痛に対しては有用性を示すエビデンスが不足しており、推奨されていません。エビデンスの質が低い研究が多いことが指摘されています。
頚椎カラー、腰部固定帯、膝装具は慢性疼痛に有用か?
これらの装具療法は、いずれも有用性を示すエビデンスが不足しており、腰部固定帯と膝装具は推奨なし、頚椎カラーは弱く推奨する程度です。
疼痛に対する安静の功罪
痛みは身体への警告サインですが、安静が必ずしも良いとは限りません。非特異性腰痛患者を対象とした研究では、4日以上の床上安静が機能障害の悪化と関連しており、安静の期間は心理的な恐怖感と関連していることが報告されています。また、安静を指示された群よりも、活動的な状態を維持するようアドバイスされた群の方が予後が良いという研究結果もあります。
不動が痛みの原因となる病態形成に影響を及ぼすことから、痛みがあっても活動を保つ方が予後が良いと考えられます。ただし、活動を続けることや運動療法に取り組むことが適切であるかどうかは、医師が診断することが前提となります。