【文献】最新の文献・研究を読んでみた⑤
- 「生活を楽しんでいる意識」が要介護認知症リスクを抑制する ― 国内地域住民の約11年にわたる大規模観察研究で明らかに―
- 骨格筋はわずかな温度の変化を敏感に感じてパフォーマンスを向上させる! ~ウォーミングアップの効果をタンパク質レベルで解明~
- 世界で初めてうつ病における miRNA と mtDNA との関連を示す
「生活を楽しんでいる意識」が要介護認知症リスクを抑制する ― 国内地域住民の約11年にわたる大規模観察研究で明らかに―
ポイント
生活を楽しんでいる意識についての回答と介護保険認定情報から把握した認知症の情報が得られた約3万9000人について、約11年観察を行った結果、その内の4,642人が認知症と診断されていた
生活を楽しんでいる意識が高いと、要介護認知症リスクが低いことを明らかにした
今後の展開
今回の研究結果は、自覚的ストレスをコントロールしながら生活を楽しんでいる意識を持つことで、将来の認知症の発症予防に重要であることを強調するもの。
今回の研究の限界として、調査開始時点で認知機能や認知症の既往が把握できていなかったこと、認知症の分類は把握していないこと、収入レベルなどの情報が考慮できなかったこと、今回調査した生活を楽しんでいる意識は心理的ウェルビーイングを大まかに把握するものにとどまるために認知症予防のための具体的な行動を特定することが難しいことが挙げられ、今後さらなる研究が必要。
骨格筋はわずかな温度の変化を敏感に感じてパフォーマンスを向上させる! ~ウォーミングアップの効果をタンパク質レベルで解明~
ポイント
今回の結果は、骨格筋の 2つの役割である筋収縮と熱産生の相乗効果を明らかにしたもの。
運動前のウォーミングアップは、細いフィラメントを活性化することで筋肉のパフォーマンスを高めている、と考えることができる。また、熱中症などの高体温時には細いフィラメントが活性化し過ぎてしまい、骨格筋の熱産生が上がることで、さらなる体温上昇を起こしてしまう可能性も考えられる。
本研究成果の意義
本共同研究グループは、私たちヒトを含め、生き物の内部で産生される熱に着目。産生された熱が環境へ散逸する過程では、体温が上昇するだけでなく、もしかすると細胞内の様々なシステムに影響し、システムの働きを補助したり、制御しているのではないかという仮説を立て、これを実験的に検証する研究を進めてきた。そして、この隠された熱の役割を「熱(サーマル)シグナリング」と呼ぶことを提案している。より大きなスケールにおいて、生き物が知覚する環境温度への応答が「温度シグナリング」と呼ばれるのと、対になる言葉。筋肉は、収縮と熱産生の 2つの機能を含む、特殊な臓器と言える。
今回の発見から、筋肉の 2つの機能が、細胞という微小な領域において、「熱シグナリング」を介して密接に結びついていることが、再確認された。
これまで「電気刺激→Ca2+シグナル→筋収縮」の仕組みを活かした医療機器開発や筋トレーニング・リハビリテーションの技術開発が進んだように、本成果は「熱シグナル→筋収縮」に基づいた新しい温熱療法、健康医療のための技術開発の扉を開くことが期待される。
世界で初めてうつ病における miRNA と mtDNA との関連を示す
ポイント
うつ病患者の血中miRNAがmtDNAと関連。
治療前の血中miRNA の評価により抗うつ薬治療の治療効果予測に貢献。
うつ病の新たなる病態メカニズムの解明や治療法に繋がる可能性。
用語説明
1:miRNA(microRNA)
ノンコーディング RNA※1-2の一種。相同性のある mRNA※1-3に結合し、翻訳阻害や mRNA分解をすることで遺伝子の発現を制御。
1-2:RNA(Ribonucleic acid:リボ核酸)
RNA は DNA と同じ核酸で、転写により一部の DNA 配列を鋳型として合成される。DNAが2本鎖の塩基配列であるのに対しRNAは1本鎖。翻訳※1-4されるかどうかで大きく2種類に分けられ、翻訳を受けるRNAからは、タンパク質が合成。翻訳を受けないRNAを総称してノンコーディング RNA と呼び、miRNAはノンコーディング RNA に分類される。
1-3:mRNA(messenger RNA)
DNA 配列を鋳型として合成されたRNAのうち、タンパク質を合成する際の遺伝情報(アミノ酸配列)を伝える役割をするもの。
1-4:翻訳(messenger RNA)
mRNA を鋳型としてタンパク質がつくられる段階を翻訳と。
2:mtDNA(mitochondrial DNA:ミトコンドリア DNA)
環状構造を持った DNA※2-2であり、母親から子供へと継承される母系遺伝として知られる。ミトコンドリアがエネルギー産生に関与するために必要な遺伝子が含まれる。
本研究の成果
本研究により、うつ病のmiRNAとmtDNAを介した新たな病態機序の解明とそれらを用いて薬剤選択を行うなどの臨床応用に繋がる可能性がある。また、miRNA が標的とする候補物質を特定することで既存薬を転用して新たな疾患の治療薬として開発するドラッグリポジショニングやmiRNAの機能を調整する新規治療薬の開発に繋がることが期待。
記事:https://research-er.jp/search