【介護】サルコペニアとフレイル~高齢の敵~
サルコペニアの概要
1989年に Rosenbergが加齢に伴い骨格筋量の減少がおこることの重要性を指摘し、サルコペニアという言葉を提唱。サルコペニアという言葉は、Rosenberg の造語で、ギリシャ語の“肉”を表す“サルクス”と“減少”を意味する“ペニア”を組み合わせたもの。
2010年ヨーロッパのワーキンググルー プ(EWGSOP)が、サルコペニアは「筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少に特徴づけられる症候群。身体機能障害、QOL低下、死のリスクを伴うもの」と定めた。従って、サルコペニアは、筋量低下に加えて、筋力の低下または身体機能の低下を伴う場合を表す。
サルコペニアのメカニズム
サルコペニアの筋肉は、速筋線維(II 型筋線維)の萎縮が特徴的。速筋線維は遅筋線維より収縮のスピードが速く、発生する張力も大きいので、筋肉の機能面では、ゆっくりとした日常動作はできるが、瞬発力は低下してくる。
筋再生能力の低下による筋線維数の減少もサルコペニア発症に関与している。
予防・治療
サルコペニアのメカニズムに述べたように、筋萎縮の予防や治療には、筋タンパク合成を増加させることが必要で、運動・栄養が重要である。
【栄養】
サルコペニア診療ガイドラインでは、適切な栄養摂取、特に1日に(適正体重)1kg 当たり1.0g 以上のたんぱく質摂取はサルコペニアの発症予防に有効である可能性があるとして推奨。
【運動】
安静にしていると筋萎縮がおこり、筋力も低下することから、運動もサルコペニアの発症を予防すると推察される。「サルコペニア診療ガイドライン」でも、運動習慣ならびに豊富な身体活動量はサルコペニアの発症を予防する可能性があり、運動ならびに活動的な生活を推奨している。
フレイルの概要
日本では、2014年に日本老年医学会が邦訳を「虚弱」から「フレイル」に変更。フレイルが健康と身体機能障害をきたした要介護状態の中間をあらわす。日本では、フレイルの定義として、日本老年医学会が提唱した「加齢に伴う予備能力の低下のため, ストレスに対する回復力が低下した状態」を用いる。
フレイルのモデル
身体的フレイルに関して,2001年に Fried らが加齢に伴って現れる身体機能の衰退兆候をとらえる 5 つの表現型モデルを提唱。この 5つの表現型(動作の緩慢さ、筋力低下、活動性低下、倦怠感・疲労感、体重減少)は、cardiovascular health study(CHS)基準といわれ、身体的フレイルの代表的な診断法として用いる。
日本版フレイル評価基準(改定 J-CHS 基準)
体重減少 :6 カ月で,2 kg 以上の意図しない体重減少
筋力低下 :握力:男性<28 kg,女性<18 kg
疲労感 :ここ 2 週間,わけもなく疲れたような感じがする
歩行速度低下:歩行速度<1.0 m/s
身体活動低下:以下の 2 つのいずれにもいいえと回答
1)軽い運動・体操をしていますか?
2)定期的な運動・スポーツをしていますか?
予防・対策
身体的フレイルの発症には,老化に影響する多数の因子が関連
【栄養】
たんぱく質の摂取量、毎食のたんぱく質摂取配分、微量栄養素(ビタミン D など)、食事内容の質(多様性)、抗酸化作用を有する食品摂取。
【運動】
活動性の低い生活が危険因子として挙げられる。その他、生活習慣病、ポリファーマシー、意欲低下や抑うつなども関連がある。身体的フレイルとサルコペニアは関連が深いため、フレイルの予防・対策には、サルコペニアの予防・対策である栄養療法と運動療法は共通。
【その他】
栄養療法と運動療法は併用が推奨。高齢者はインフルエンザや肺炎などに感染すると日常活動度が低下し要介護状態に陥りやすい。感染予防のために、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種なども有効である。
サルコペニアとフレイル 東海大学医学部看護学科 沓澤 智子