【文献】最新の文献・研究を読んでみ⑫
高音域の音楽を聴くだけで難聴者の脳が活性化~新しい聴覚リハビリ手法として期待~

概要
広島大学の研究グループは、1日1時間、高音域を明瞭に再現する音響デバイスを使って音楽を聴くことで、難聴者の脳が活性化し、特に騒がしい環境での言葉の聞き取り能力が改善することを発見しました。これは、補聴器を使わずに自宅でできる新しい聴覚リハビリテーションとして期待されています。
研究の主なポイント
脳の活性化と聞き取り能力の改善: 高音域の音楽を聴くことで、難聴者の脳の聴覚中枢が活性化し、騒音下での言葉の聞き取りが有意に改善することが確認されました。
補聴器に代わる選択肢: 補聴器の装用が難しい、または抵抗がある方にとって、自宅で手軽に取り組める有効なリハビリ方法となる可能性があります。
高音域が重要: 特に、補聴器では補いにくい高音域(2kHz~8kHz)や超高音域(8kHz以上)を明瞭に再現できるデバイスの使用が効果的です。
研究の背景
高齢化が進む日本では、感音性難聴を抱える方が増えています。感音性難聴は、内耳や聴神経の障害により音が聞こえにくくなる病気で、特に騒がしい場所での会話が困難になり、疲れやすくなる特徴があります。従来の補聴器は、長時間の装着が難しかったり、使いにくかったりといった課題がありました。
こうした背景から、補聴器に代わる新しいリハビリ方法が求められていました。今回の研究では、高精細な音、特に高音域を明瞭に再現する音響デバイスを用いた音楽聴取が、難聴者の脳の音処理機能にどのような影響を与えるかを検証しました。
研究成果の詳細
研究では、40人の難聴患者を対象に、高明瞭化音響デバイスを用いた音楽療法(明瞭聴取音療法群)と対照群に分けて、35日間、毎日1時間の音楽聴取を実施しました。
騒音下での音声知覚能力の改善: 明瞭聴取音療法を受けたグループでは、騒音下での音声聞き取りテスト(S/N比+10dB)で有意な改善が見られました。
聴覚に関する脳活動の活性化: 脳磁図計測の結果、明瞭聴取音療法により、脳の聴覚皮質(左上側頭回)における神経反応が活性化していることが示されました。これは、明瞭な音が聴覚中枢に適切に刺激を与えていたことを示唆しています。
年齢に関わらず有効: この治療法は年齢に関係なく有効であり、特に高音域の聴力が比較的保たれている被験者(HF-HQグループ)では、より大きな効果が得られました。
これらの結果から、明瞭聴取音療法が脳の音声処理能力を向上させ、「騒音下での聞こえ」の改善につながったと考えられます。
今後の展望
今回の研究成果は、高精細な音を活用した非装着型の聴覚リハビリとして、社会に新しい選択肢を提供する可能性を秘めています。今後は、最適な使用時間や期間の特定、補聴器との比較による満足度の評価など、より実践的な条件下での効果検証や、長期的な効果、持続性の確認が進められる予定です。
カカオの有効成分でスポーツ時の判断力が向上
ココアフラバノールがスポーツ時の判断力向上に貢献
早稲田大学と立命館大学の研究グループは、サッカーやラグビーなどの状況判断を要するスポーツにおいて発生する認知疲労(長時間の認知的活動による認知機能の低下)に対し、ココアフラバノールが有効である可能性を明らかにしました。
主要なポイント
認知疲労とパフォーマンス低下:サッカーやラグビーのようなスポーツでは、身体的な疲労だけでなく、連続的な状況判断による脳の疲労(認知疲労)も生じます。この認知疲労は、精神的な疲労感を増大させるだけでなく、運動中の判断力低下を引き起こすことが知られています。
ココアフラバノールの効果:本研究では、高用量のココアフラバノール(2錠、500mg)を運動の1時間前に摂取することで、認知疲労下の運動中の判断力(速度と精度)が向上することが示されました。ただし、精神的疲労感の軽減効果は認められませんでした。
天然由来成分でドーピングフリー: ココアフラバノールはカカオの種子から抽出される天然素材であり、ドーピングの対象外です。
今後の展望:今回の研究は単回摂取の効果を検証したものですが、将来的にはココアフラバノールの長期的な摂取による認知症予防効果など、さらなる研究が期待されます。また、精神的疲労感の軽減アプローチについても今後の課題として挙げられています。
研究の意義
この研究結果は、状況判断を必要とするスポーツにおいて、試合や練習前に高用量のココアフラバノールを摂取することが、競技中の素早い判断を可能にし、競技力向上に貢献する可能性を示しています。
研究者のコメントから
2022年のサッカーワールドカップで、三笘薫選手の「1.88mm」が象徴するように、サッカーなどの競技スポーツにおける判断力の重要性が改めて強調されています。本研究は、この「状況判断」という、これまであまり着目されてこなかった認知疲労に対するアプローチであり、今後のスポーツ科学研究に新たな視点を提供するものとして期待されています。