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認知症疾患の神経病理学「Neuropathology of Dementia Disorders」

認知症疾患の神経病理学「Neuropathology of Dementia Disorders」
著者:Julie A. Schneider, MD, MS**

 

 

 

 

最近の発見

ADの新しい診断基準では、アミロイドβが「ADの証拠」とされ、分子マーカーが必要。臨床診断とは異なり、病理学的診断は脳の組織所見に基づいて行われる。TDP-43病理(主に前頭側頭型認知症に見られる)は、新たに「LATE」と呼ばれる疾患として認識されるようになった。ADと共に他の神経病理が存在すると、症状が複雑になります。一方で、病理学的変化があっても認知症状が現れない人もおり、これは「認知予備力(cognitive reserve)」という概念で説明される。

 

●アルツハイマー病
ADでは、2つの異常タンパク質が脳に蓄積される
* アミロイドβ(Aβ):細胞外プラークとして存在
* リン酸化タウ:神経細胞内の神経原線維変化(NFT)
アミロイドβの沈着は、脳内でAβ40やAβ42として観察され、Aβ42はより神経毒性が強く、主に神経突起周辺に沈着。一方で、Aβ40は主に血管壁に沈着し、脳アミロイド血管症(CAA)を引き起こす。

 

遺伝的要因

ダウン症候群(21番染色体の過剰)がADのリスクを高めることが知られています。APP遺伝子の過剰コピーがAβの生成に関与。
また、APP、PSEN1、PSEN2などの遺伝子変異は、Aβの産生や比率に影響を与えます。これらはAβ前駆体タンパク質の切断に関与する酵素複合体の一部。

 

APOE 遺伝子

最も一般的なADの遺伝的リスク因子は APOE遺伝子である。
APOEには3つのタイプ(ε2、ε3、ε4)があり、ε4を2つ持つ人はADのリスクが最も高く、Aβの蓄積も多い。ε2を持つ人は、逆にリスクが低くなる
APOEのバリアントはアミロイド代謝以外にも、神経炎症、細胞骨格、ミトコンドリア、脂質代謝などにも影響を与える。

 

アミロイド沈着の影響

アミロイド沈着は、最初は脳皮質の外層に始まり、時間とともに海馬、基底核、中脳、小脳などに広がります。特定のタイプのアミロイド沈着は、さまざまな臨床型のADの発症に関与。
アミロイドの沈着は、症状が出る何年も前に始まることが多く、脳スキャンやバイオマーカーを使って早期に検出可能。

アミロイドプラークの種類

* 拡散性プラーク(Diffuse Plaques):初期段階で、比較的毒性は低い
* 成熟プラーク(Neuritic Plaques):神経変性や炎症と関連し、より毒性が高い
これらのプラークは通常、大脳皮質に見られますが、皮質下や脳幹にも沈着することがある。
神経原線維変化(Neurofibrillary Tangles)
神経原線維変化(NFT)は、ADのもう1つの中心的な病理所見。これらはアミロイドプラークよりも細胞内に蓄積され、主に神経細胞の細胞質に存在。NFTは異常にリン酸化されたタウタンパク質で構成され、二重らせん状のフィラメントを形成。
*タウは微小管結合タンパク質で、染色体17上のMAPT遺伝子によってコードされている。
 タウの異常なリン酸化は、軸索輸送の障害や細胞機能の喪失を引き起こす。
NFTはAD以外にも、正常加齢や他の神経変性疾患(PSP、CBD、Pick病など)でも見られます。加齢に伴い、タウは神経膠細胞(グリア細胞)にも蓄積する。
加齢とともに進行するタウ病理の広がり
NFTは最初に内側側頭葉(海馬、嗅内皮質)に蓄積し、その後大脳皮質へと広がっていく。これは Braak分類(ステージI~VI)で記述。
* ステージI~IV:病変は内側側頭葉に限局
* ステージV~VI:大脳皮質の広範囲に病変が拡大
NFTの進行過程(Braak段階)は、ADの進行と密接に関連しており、臨床症状の重症度にも関係。

 

ADの診断基準の進化

以前の基準(CERADなど)では、神経原線維変化やアミロイドプラークの有無が重要だが、現在では以下のように「ABCスコア」に基づく統合的な判定が行われている
Aスコア:アミロイドβ沈着の範囲(Thal段階)
Bスコア:NFT(神経原線維変化)の分布(Braak段階)
Cスコア:神経原線維変化の密度(CERAD)
このスコアの組み合わせにより、AD病理の程度が「低・中等度・高度」に分類されている。


レビー小体病理

レビー小体は、α-シヌクレインという異常タンパク質が神経細胞質に蓄積したもの。高齢者の脳に一般的に見られ、パーキンソン病やレビー小体型認知症(DLB)の病理マーカーでもある。
大脳皮質や皮質下領域に見られ、認知症や運動障害と強く関連。
α-シヌクレインの蓄積は、記憶障害、注意障害、幻視などの症状を引き起こす。
レビー小体型認知症(DLB)は、AD病理を伴うことも多く、鑑別が難しいです。神経原線維変化(NFT)が少ない場合でもレビー小体が原因で認知症を呈することがある。

 

LATE(辺縁系優位型 TDP-43 脳症)
LATE(Limbic-predominant age-related TDP-43 encephalopathy)は、近年認識され始めた神経病理疾患で、特に高齢者に多く見られる。
TDP-43は元々ALSや前頭側頭型認知症(FTLD)で知られていましたが、ADを伴わない高齢者でも見つかるようになった。
特に健忘型認知症との誤診が多く、海馬や扁桃体など辺縁系に優位に沈着する。ADのような症状を示しますが、病理的には異なる。
LATE-NC(LATE neuropathologic change)では、記憶障害は緩やかに進行し、しばしばTDP-43とAD病理の両方が共存。

 

補足:用語解説
NFT(Neurofibrillary Tangles):異常なタウタンパク質が神経細胞内にたまったもの
Braakステージ:タウの分布に基づくADの進行段階
Thalステージ:アミロイドβの脳内分布による分類

CERAD:神経原線維変化の密度を評価する診断基準

TDP-43:RNA結合タンパク質、病的蓄積で認知症に関与

LATE:高齢者に多いTDP-43による認知症の一種

 

小血管病(Small Vessel Disease)

「小血管病」という用語は、アテローム性動脈硬化(CAA)や微小梗塞、白質変化などを指すことが多いです。糖尿病や高血圧、加齢がリスク因子とされ、脳の血管が徐々に損傷を受け、認知症の基盤となることがある。

アテローム性動脈硬化(大血管病)も、小血管病に関連することがある。

高血圧や動脈硬化は白質病変や微小出血の原因であり、MRIで観察される白質高信号の多くに関係。

 

動脈硬化症(Arteriolosclerosis)

小動脈の内膜が硝子様に肥厚する状態です。基底核、視床、白質などに多く見られます。平滑筋細胞の喪失と血管壁の収縮が特徴で、加齢、高血圧、糖尿病と関係がある。

臨床的には、AD、血管性認知症、混合型認知症、加齢に関連したパーキンソン症候群と関連。

 

脳アミロイドアンギオパチー(CAA)

CAAは脳血管にアミロイドβ(Aβ)が沈着する疾患で、脳出血や認知症の原因になる。Aβの蓄積は、APOE ε4遺伝子型と強く関連。

* 軽度〜中等度のCAAはADにも見られる。

* 重度のCAAは高頻度の脳出血、微小出血、皮質下出血を引き起こす。

* 皮質性微小出血がMRIで偶発的に見つかることもあり、可逆性脳症状を呈することがある。

 

混合型病理と認知症(Mixed Pathologies)

高齢者では、AD、血管性病変、レビー小体病変、TDP-43病変など、複数の神経変性・血管病理が混在することが多く、臨床的には「アルツハイマー型認知症」と診断されている症例でも、実際には混合型認知症であることが多い。

そのため、明確な分類には、NIA-AAフレームワーク(ADの神経病理学的定義)が役立つ。

 

前頭側頭葉変性症(FTLD)

FTLDは前頭葉・側頭葉を中心に萎縮が見られ、行動異常や言語障害を主な症状とする認知症。

FTLD-TDPとFTLD-tauに大別される。

  * FTLD-TDP:TDP-43タンパク質の蓄積

  * FTLD-tau :異常タウタンパク質の蓄積

* Pick病はFTLDの代表的疾患で、丸く太いタウフィラメントが特徴的。

遺伝性のFTLDもあり、GRN、MAPT、C9orf72遺伝子が関与。

 

認知的レジリエンスとサブクリニカル病理

多くの人で、認知症を発症する前から病理が進行していることが分かっている。PETなどの脳画像検査でアミロイド蓄積が確認できても、症状が現れない人もいる。これを認知的レジリエンス(cognitive resilience)」と呼ぶ。

要因には、遺伝、教育年数、身体活動、社会交流、不安症の有無などが関係。

神経原線維変化:AD以外でも存在

神経原線維変化(NFT)は、ADやFTLDだけでなく、外傷性脳損傷(CTE)やPSP、CBDなど他の病態でも見られる。

加齢に伴うタウオパチー(PART)

Primary age-related tauopathy(PART)は、ADに似たタウ沈着を示しますが、アミロイドβが沈着していないのが特徴。

特に80歳以上の高齢者に多く、臨床的には軽度の記憶障害を呈することがありますが、明確な認知症には至らないケースもある。

 

外傷性脳損傷と慢性外傷性脳症(CTE)

頭部外傷はADや他の認知症のリスク因子。CTEは、ボクサーやアメフト選手などの反復する頭部打撃により起こる病態。

* CTEでは、前頭葉・側頭葉に神経原線維変化が見られる。

* 長期的には情動障害、記憶障害、認知症を呈する。

* ADとは異なる神経原線維の構造(直線状フィラメントなど)がある。

 

進行性核上性麻痺(PSP)と皮質基底核変性症(CBD)

どちらもパーキンソン症候群の原因であり、タウ病理が関与。

PSP:中脳や大脳皮質に変性、眼球運動障害、姿勢保持困難が特徴。

CBD:大脳皮質や基底核に病変。失行、手の動きの異常など。

両者は4リピート型タウが主に関与し、ADやPARTとは異なる。

 

加齢関連タウアストロパチー(ARTAG)

タウが神経細胞だけでなくアストロサイトにも蓄積される病態で、特に高齢者に多い。

ADやCBDで見られることもあるが、ARTAGは加齢単独でも出現。

グリア細胞に蓄積し、皮質や脳膜下に広がることがある。

 

その他のまれな認知症病理

クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD):プリオン病。進行が早く、数ヶ月で死に至ることが多い。

ハンチントン病:遺伝性の疾患。運動障害と認知症が出現。HTT遺伝子のCAGリピートが原因。

ウェルニッケ・コルサコフ症候群:ビタミンB1欠乏が原因。眼球運動障害、運動失調、記憶障害が特徴。

 

結論

認知症の病因は多様ですが、以下が主要な神経病理所見になる

アルツハイマー病(AD):アミロイドβとタウタンパク質

レビー小体病(DLB) :α-シヌクレイン

LATE:TDP-43タンパク質

血管性認知症:小血管障害や動脈硬化

その他:FTLD、CTE、CBD、PSP、CJD、ウェルニッケ・コルサコフ症候群