【脳】anger burst(アンガーバースト)
アンガーバーストとは!?
アンガーバーストとは、前頭葉損傷患者が示す anger burst(激しい怒り)である。前頭葉損傷患者は,自分でもわかっているが,その場では怒りを抑えられず、後で反省する、ということが少なくない。
心理的アプローチ
このような場合に対する心理的アプローチの1つとして認知行動療法 cognitive behavioral therapy が挙げられる。認知行動療法は、うつ病や不安障害など、多くの精神科疾患に対しては、主流とも言える心理療法である。欧米では、脳損傷患者に対してもさかんに用いられている。脳損傷患者に対して、定型的な認知行動療法を安易に導入することは慎むべきだが、症例によっては有用なアプローチとなる。
前頭葉損傷患者が示す anger burst に対して、認知行動療法を援用する場合,原則として,患者の機能や気づきのレベルが低いほど行動的アプローチが中心となり、反対に機能や気づきのレベルが高いほど認知的アプローチの導入が可能となる。
高次脳機能障害は一種の喪失体験であり、特に事故による頭部外傷の場合などでは、回復過程における心理的要因が当然重要である。気づきの程度にもよるが、多くの症例で自分の状態に対する驚き、否認、怒り、悲しみ、不安、受容などが表出されてくる。
行動的アプローチ
Anger burst に対する行動的アプローチとして、anger burstに直面してのアプローチと、それを防ぐための普段のアプローチとに大きく分けることができる。
Anger burst に直面してのアプローチとしてはまず、自分で自分を第三者的に見て、どのような状態にあるかを知る必要があり、そのためにははっきりと声に出して自問自答してみるとよい。その上で anger burst が生じそうな状況であれば、家族やセラピストとの約束をはっと思い出してもらうようにする。約束を思い出せるような小道具アイテム(メモ、お守り札、写真など)も有効である。
環境調整はもっとも重要なポイントであるが,特に「やばい」と感じる状況からみずから離れるタイムアウト(立ち去り)は緊急回避の基本的方略である。どうしてもタイムをかけることができない状況では、リラクセーション、体を動かすなどの気分転換を図る。即効性の向精神薬の頓服などもこの段階で併用するとよい。
Anger burst への対処法 Oliver Zangwill センターにおける指導法の例
A:Anticipate situations that cause anger 怒りを惹起する状況を予測する
N:Notice the signs of anger 怒りが生じている徴候に気づく
G:Go through a temper routine 平静心を保つ(リラクセ-ションなど)
E:Extract yourself from the situation 必要に応じてその状況から離れる
R:Record how you coped どのように対処したか記録しておく
Anger burst に対する行動的アプローチ
1:Anger burstに直面してのアプローチ
・自問自答:声を出して自分に尋ねる
・ Reminding:はっと思い出す
・小道具の利用:メモ,お守り札,写真etc.
・環境調整
・タイムアウト:その場からの立ち去り
・リラクセーション:深呼吸,体を動かすetc.
・Anger─cue card:SOSカードを出す
2.:nger burstを防ぐための普段のアプローチ
・自己チェック:日記etcの記録
・Reward:トークンエコノミー (自分へのごほうび)
Anger burst に対する認知的アプローチ
1:Anger burstが生じるパターンについての認知的アプローチ
・脳損傷と怒りとの関係を理解する
・状況因的なストレッサーを見出す
・怒りの身体的前駆症状を見出す
・怒りを爆発させないとどうなるか? を考える
2:Anger burstの帰結についての認知的アプローチ
・怒りを爆発させた場合のマイナスを書き出す
・怒りを抑えられた場合のプラスを書き出す
衝動コントロールへの認知療法
Anger burst に対する認知的アプローチは、anger burst が生じるパターンについて考えていくアプローチと,anger burstの帰結について考えていくアプローチの 2つに大きく分けられる。
Anger burstが生じるパターンの認知的アプローチ
・発症機転や状況因について、本人の理解を深めていく
脳損傷と怒りとの関係、ストレッサーや誘因、怒りの身体的前駆症状など、発症機転や状況因について、本人の理解を深めていく。脳の構造と機能、損傷による症状、自分の脳損傷の部位や程度などについて、知っておくことは対処法を考える上でも役に立つ。
・脳の損傷で自分の感情がコントロールしにくいのだと知る
自分の脳を知ることで多くの症例で本人の気持ちが楽になったり、周囲からも理解を得られるようになったりして、関係性が変わってくる。また、いかなる状況が自分の anger burst を誘発するかを知ることは決定的に重要である。
・外的環境も忘れてはならない
疲労・空腹・ 不眠・体調不良・生理周期などの体内環境や天気・気温・におい・騒音などの外的環境も忘れてはならない。ストレッサーは対人関係にのみ目を向けるべきではない。何事においても、現在の状況から近い将来を的確に予測できることが、問題回避の第一の方略である。
Anger burstの帰結について考えていくアプローチ
記録ノートを記載する
認知療法のもっとも定型的な技法であるプラス点・マイナス点についての記録ノートが有用である。怒りを爆発させた場合のマイナス点を書き出し、一方、怒りを抑えることができた場合のプラス点も書き出してみる。善悪ではなく、むしろ損得で行動を判断するように指導する。
高次脳機能研究 第29巻第1号 社会的行動障害への介入法 ─精神医学的観点からの整理─ 三村將