【呼吸器】呼吸器疾患~リハビリにおけるリスク管理②~
呼吸器疾患のリハビリを安全に進めるには、呼吸状態、全身状態の情報をもとに、リスクを把握し、リハビリが施行可能なのか、そうでないのか、可能であればどこに配慮すべきなのかを判断しなければならない。
●慢性期の呼吸療法
慢性期の呼吸療法では運動療法が中心。
運動療法に伴う呼吸困難、低酸素血症などのリスクはもちろん、運動療法開始前に呼吸や全身状態を把握することが重要である。
呼吸困難
運動療法中や動作時に生じる自覚症状としての呼吸困難の程度は、10段階のBorg Scale(以下、BS)を用いる。BSは主観的な呼吸困難を客観的に捉える事ができる。
・BSが3~5で運動処方される事が多い
・中止基準:BS7以上
運動療法中は、パルスオキシメーターによるSpO2の監視が必須。
問診での訴えや個別に基づいた尋ね方を意識することが大切。
呼吸困難の他覚的所見
呼吸困難は一般に自覚症状として捉えられているが、他覚的に観察できる状態として…
①自発呼吸回数 25回/分以上
②努力呼吸(鎖骨上窩の陥凹)
※呼吸補助筋である頸部筋群(胸鎖乳突筋、斜角筋、僧帽筋)の委縮
③呼気所見(呼気時間の短縮、喉頭牽引、舌根牽引)
④呼吸補助筋の緊張
⑤交感神経系の緊張(冷汗、頻脈など)
<血液ガスの基準値>
pH(水素イオン濃度): 7.35~7.45
正常値よりも酸性に傾くことをアシドーシス
正常値よりもアルカリ性に傾くことをアルカローシス。
7.0以下になると昏睡症状が出て、7.7以上になると痙攣などの症状が出ます。
PaO2(酸素分圧): 80~100mmHg
PaCO2(二酸化炭素分圧): 35~45mmHg
SaO2(酸素飽和度): 95%以上
低酸素血症
安静時に低酸素血症が生じない安定時の方でも運動療法によって、運動誘発性低酸素血症(exercise induced hypoxemia:EIH)を認めることがある。
チアノーゼ
中心性チアノーゼ
観察部位:口唇、口粘膜、爪床
・SaO2(酸素飽和度)の低下
・ばち状指や多血症を伴う
末梢性チアノーゼ
観察部位:四肢末梢、顔面など
・血流遅滞のため、組織での酸素飽和度が低下し、静脈血の還元ヘモグロビンが増加。
・動脈血における酸素飽和度は正常、あるいは低下してもわずか。
CO2ナルコーシス
高炭酸ガス血症により意識障害を伴い、中枢神経症状を伴う病態をCO2ナルコーシスという。
頭痛、発汗、顔面紅潮、血圧上昇にはじまり、次第に傾眠から昏睡に陥る。
不適切な酸素増量はCO2ナルコーシスから呼吸停止を起こす危険性がある。調節する際は医師の指示のもと行っていく。
呼吸中枢を抑制するような薬剤の投与もCO2ナルコーシスを誘発。
COPD患者では、不安や抑うつなどの問題を抱えている事が多く、これに対する薬剤が換気抑制し、CO2ナルコーシスを引き起こすことがある。
まとめ
リスク管理は、観察が大切であり、特に尿量や体重、末梢の浮腫、自覚症状(「なんとなくきつい」「いつもと同じ動作でも呼吸がつらい」など)といった指標の変化には注意を払うべきである。
慢性呼吸不全患者への運動療法はエビデンスが最も高いと言われているが、リスクも高く、呼吸療法は、心不全の有無や程度、管理方法などの確認に基づいたリスク管理も必要不可欠。
資料
1)高橋仁美 他.呼吸器疾患の理学療法におけるリスク管理.理学療法学 第39 巻 344‐348
2 )日本呼吸器学会COPDガイドライン第2版作成委員会.「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン」 第2版 ポケットガイド. 2004.12.10
3)高橋哲也.早期理学療法 ‐呼吸循環器系のリスクと効果‐.理学療法学 第29 巻 第8郷309 〜313