pusher症候群(体軸傾斜症候群)
●バランスを保つのに必要な情報
正常人が安静時・動作時に頭部体幹の平衡、バランスを解剖学的肢位に保つことができるのは、
① 固有受容器
② 迷路からの情報
③ 視覚からの情報
を中枢で統合。よぶんな運動を抑制し、身体各部分をコントロールしているからである。生理的・解剖学的な姿勢肢位が何らかの原因で変化を受け、傾斜・彎曲を起こしたものを体軸性症候群(out of line syndrom)と呼ぶ。
●頭頂葉性体軸変化(側方性)
<頭頂葉の機能>
固有受容器・迷路情報・視覚情報を統合し、頭・身体を動かしてその位置を決定する。
頭頂葉が障害されると、上記の情報が不足、または過剰となり身体が傾斜する。
麻痺側へ傾いた身体を非麻痺側へ立て直すことが困難となり、傾きの角度が増し麻痺側から支える介助者を押してくるような感じを与える。
※pusher syndromeで代表される。
①坐位でのバランス反応
a)麻痺側に身体を傾けると、頭・体幹を非麻痺側は屈曲する。麻痺側を凸にした体軸の彎曲がみられる。身体の傾きに対する自覚が乏しく、容易に倒れやすい。
b)非麻痺側に身体を傾けても、頭・体幹の起立反射は起こらない。1本の棒を傾けたような感じで、患者は敏感に傾きを感じ取りやすい。
②立位におけるバランス反応
麻痺側へ倒れる際には立ち直り反射が出るが、倒れる自覚が少なく、容易に麻痺側に転倒してしまう。
●前頭葉性体軸変化(前後性)
前頭葉前野・尾状核あたりの病変に伴う前頭葉性(運動性)不注意があるときは、筋の緊張を緩和させることができない 。
この状態がパラトニア(counterholding)であり、常に体軸がずれているわけではないが、ずれとして目立つ。
●回転性体軸変化
・線条体・淡蒼球などの機能的障害によるものである。
・捻転ジストニア、捻転痙攣、アテトーゼ、舞踏病などがみられる。
・静的・動的時どちらか、もしくは両方ともに体のずれがみられることがある。
・主に筋固縮が関与していると言われている。
●典型的な症状(左片麻痺の例)
1.顔は右を向き、同時に右に側方偏位している。従って右肩から頸までの距離が著しく短くなる。坐位時、頸を麻痺側方向(左方向)に側屈しようとしても、非麻痺側の筋を弛緩できない。しばしば目は右を向き、左に目を移動・固定しておくことが困難。
2.左側から入ってくる刺激に対する認知能力が低下。
①触覚・運動感覚認知:動いているときに麻痺側を無視するなど
②視覚認知:左側の物を見ないなど
③聴覚認知:左側から話し掛けてもわからないなど
3. 顔が無表情。
4. 呼吸コントロールができず、少ない肺活量のため、声は単調になる。
5.背臥位になると、頭から足まで麻痺側全体が伸張する。非麻痺側体幹が短縮しており左右差が著しい。
7. 両膝は屈曲位、両足をベッドにつけた状態。下肢を麻痺側に傾ける。
8. 坐位になると顔は右を向いて固定。非麻痺側体幹は著しく短縮する。
9.トランスファーの際、非麻痺側上下肢で後方及び麻痺側方向に強く押す。
10.車椅子に座る際、体幹屈曲、顔は右に、非麻痺側上肢は常に過活動状態になる。
11.坐位時に前方へ体を傾けると、非麻痺側上下肢で麻痺側方向へ押してしまう。
12.立位時には重心が麻痺側に偏り、非麻痺側へ斜めになる。
13.立位では、支持する上肢に寄り体を後ろに傾けるか、股関節を屈曲して前傾する。非麻痺側体幹は過活動となり、短縮が著しくなる。
14.歩行時、麻痺側下肢は強く内転。前方へ振り出すときに非麻痺側下肢の前で交差することもある。
15.移乗時、遠いうちから車椅子を握り、体を回転しないで座りはじめる。
16.多弁傾向。動作がうまくできないことを解説する。
17.日常生活動作(更衣の自立など)を学習することが困難。
18.非麻痺側手が利き手であったとしても不器用になることがある。
20.認知に多くの障害が出る。
参考文献
福井圀彦:脳卒中最前線.医歯薬出版社,1999.
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife/1841/study_pusher.htm