大腿骨頸部骨折におけるリスク
●大腿骨頸部骨折の臨床的分類
大腿骨頚部骨折は大腿骨骨頭直下から大転子部での骨折を言い、骨折線が関節包内にあるか否かで、内側骨折と外側骨折に分ける。
これは解剖学的に骨癒合の条件が異なることを根拠として分類している。
●大腿骨頚部骨折の臨床的特性
内側骨折が局所的骨癒合条件が不良
治癒しにくい理由には・・・
①この部には骨膜がなく、骨膜性仮骨が形成されない。
②大腿骨の血液分布の関係より骨頭部が咀血に陥りやすい。
③骨折線は垂直方向に走りやすく、骨折部に剪断力が作用し、骨片間が離開しやすい。
*よって人工骨頭置換術が多い。
外側骨折の治療法
外側骨折で骨癒合が期待できる場合は・・・
CHS(Compression hip screw)固定術
PFN(Proximal femoral nail)固定術
などが実施される!!
●体全体の評価
全身状態の把握。
変形性関節症の有無を確認。
骨粗鬆症:骨密度の程度を確認する。
◎活動性の評価
歩行能力の回復には受傷前の歩行能力と年齢が大きく影響する。
→家族からの情報も有用
◎認知症の評価
積極的なリハの適応を判断する指標となる!
また危険行動を予測するために評価が必要!
●術前のリスク
脱水:介助者への気兼ねから排尿回数を減らそうと飲水制限してしまう人が多い。
高齢のため受傷前から筋力が弱い。
術前の待機時間が長く筋力低下が予測される。
☆ベッド上での筋力訓練実施
疼痛:疼痛やストレスによる精神不安定、
食欲不振、不眠、拒食、失禁などを起こす。
●術後のリスク
感染症:術創部の管理状態・尿路感染
免疫力低下:肺炎
褥創
下肢深部静脈血栓症(DVT)
⇒患側足関節の自動運動(底背屈を繰り返す)
腓骨神経麻痺:長時間の股関節外旋位保持により起こる。
<CHS・PFN術後>
①骨頭穿破
スクリューが骨頭を貫いて関節痛を起こす
②カットアウト
手術後に近位骨片の転移により、スクリューの先端が骨頭を突き破り関節内に突出する
<人工骨頭置換術後>
脱臼肢位:特に起居移乗動作時は注意。
荷重による再転位:骨折部で再転位が進行している場合は、運動時・荷重時痛が続く。
<人工骨頭置換術後>
膝の痛み:術後の展開や整復時に患側の膝に負担がかかることがあり、術後、膝の痛みを訴える場合がある。
脚長差:人工骨頭置換術で脚長が長くなった場合、筋肉や関節包が過伸張されるとそれ自体が屈曲拘縮の原因となる。
脱臼肢位:下衣、靴下の更衣動作指導。リーチャ―やソックスエイドの使用。
*訓練前に禁忌事項(可動制限・荷重)を主治医に確認!!
●動作の阻害要因
①痛み
骨折時に生じた軟部損傷や手術による軟部組織の痛み、リハの進行に伴い内転筋群、大腿直筋、大腿筋膜張筋や腸脛靭帯にかけて筋炎や腱炎による痛みが起きやすい。
②関節拘縮
骨折時の軟部損傷や手術時の侵襲による組織の瘢痕形成によって起こる。
術前の待機期間が長い場合も、痛みの少ない肢位を取り続けることによる組織の短縮が生じ、股関節の拘縮の原因となる。
③認知症
認知症は転倒の危険因子。術前の臥床期間が認知症悪化に結びつくことも考えられる。
●絶対にやっていけないこと
<脱臼>
後方進入術式の場合:屈曲・内転・内旋は脱臼肢位であるため禁忌
前方進入術式の場合:伸展・内転・外旋は脱臼肢位であるため禁忌
※人工骨頭置換術では後方進入術が最多
<日常生活>
体の中心線から内側に患肢を入れないことが動作の基本。
脱臼危険肢位と注意すべき事項
①端座位時など、物を取ろうと身体を捻る動作は危険。
対応:患側下肢が身体の左右中心線より内側に入らないよう指導する。
②端座位時、椅子などが低い。トイレ動作時も要注意。
対応:椅子を高くする。トイレ座面の保高をする。
③座位での靴下着脱動作、ズボンの着脱
対応:動作手順での指導、リーチャ―・ソックスエイド等の自助具制作。
参考文献
①米本恭三・石神重信・石田暉: リハビリレーション診療 Decision Making CLINICAL REHABILITATION 別冊.医歯薬出版 2008
②石橋 英明: 理学療法科学, Vol. 20: No. 3 2005
http://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/20/3/20_227/_article/char
③http://www.oie.or.jp/html/disease/daitaikotsu.htm
④http://www9.plala.or.jp/sophie_f/referene/daitaikotu1.html