虚血性心疾患
●虚血性心疾患とは?
冠状動脈の病変により、心筋に血液の供給が行えないと心機能に障害が生じます。
これを虚血性心疾患といいます。代表的なものとして狭心症と心筋梗塞があります。
①狭心症
動脈硬化等により冠状動脈内が狭くなることで心筋に必要な酸素需要が増すが、それに対して血管拡張をしても血流増加をうまく出来なくなる状態。
<原因>
①冠状動脈疾患(動脈硬化症、動脈炎、攣縮等)
②冠状動脈以外の疾患(大動脈炎、弁膜疾患、高度な貧血等)
※ほとんどの場合、冠状動脈疾患であり特に冠状動脈硬化症によるものと言われています。
<分類>
①労作狭心症:身体の疲労により生じる。
②安静狭心症:身体の労作なしに生じるもの。夜間あるいは早朝に発生し、冠状動脈の攣縮が原因。
<症状>
胸部不快感(圧迫感、灼熱感、鈍痛):締め付けられるような痛み。
放散痛:しばしば左肩、左腕への痛みを感じる(高齢者や糖尿病患者では痛みを訴えない場合がある)。
痛みの時間:短く2~3分程度。
※ニトログリセリン製剤が有効。
②心筋梗塞
冠状動脈が急激に閉塞され、その血管の栄養領域の心筋組織が壊死に陥った状態。
心筋梗塞の危険因子として、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙、ストレス等がある。
<原因>
①動脈硬化:90%以上。動脈硬化性肥厚した内膜の剥離、粥腫の破綻等による血栓形成と内腔閉塞が原因になる場合が圧倒的に多い。
②その他:梅毒性大動脈炎、結節性動脈周囲炎等による炎症性の冠状動脈閉塞など
<病型分類>
①左室前壁梗塞:最も発生頻度が多く40~50%
②左室後壁梗塞:発生頻度は30~40%
③左室側壁梗塞:発生頻度は15~20%
④右室梗塞:発生頻度は低い。
⑤心房梗塞:発生頻度は低い。
<症状>
前駆症状として動悸、倦怠感、胸痛等がある。
非常に強い胸痛であり、放散痛を伴う。
痛みの程度は狭心症より強く持続時間は30分以上と長く続く。
※ニトログリセリン製剤は無効。
激痛に伴い、顔面蒼白、呼吸困難、不安感、冷汗、悪心・嘔吐、発熱などを訴える。
また、血圧は低下し、重症であればショック状態になる。
●虚血性心疾患の運動療法
①運動療法の効果
継続して運動していく事で次第に心拍数や血圧の上昇が起こりにくくなる為、発作が起こりにくくなる。
危険因子である高血圧、高脂血症、肥満等を軽減する事ができる。
※安静時狭心症の場合は注意が必要。早朝や夜間等の起き易い時間は避ける。
②虚血性心疾患の運動療法
【運動の種類】
エルゴメーター、歩行、サイクリング、水泳等の有酸素運動が効果的。
※無酸素運動は心臓に負担が掛かる為行わない。
【時間】
1日20~30分。週に3~5回程行う。
【運動の強度】
ボルク・スケールを用いると良い。
11~13点(楽からややきつい)の運動強度で運動を行うと良いとされています。
※ボルク・スケール
日本語にすると主観的運動強度と言います。
「非常に楽である」から「非常にきつい」までの自覚症状を6~20の数値で表されます。
【運動での注意点】
①かがまない。
②力まない(力を入れない)
③伸びない(伸びをしない)
④ストレスを与えない。
●虚血性心疾患のリスク管理
<運動負荷の中止基準>
①症状:狭心痛、呼吸困難、失神、めまい、ふらつき、下肢疼痛
②兆候:チアノーゼ、顔面蒼白、冷汗、運動失調、異常な心悸亢進
③血圧:収縮期血圧の上昇不良ないし進行性低下、異常な血圧上昇
<アンダーソンの基準(土肥変法)>
Ⅰ.運動療法を行わないほうがよい場合
①安静時脈拍数120回/分以上
②拡張期血圧120mmHg以上
③収縮期血圧200mmHg以上
④動作時しばしば狭心痛を起こすもの
⑤心筋梗塞発作後1か月以内
⑥うっ血性心不全の所見の明らかなもの
⑦心房細動以外の著しい不整脈
⑧安静時既に動悸、息切れのあるもの
Ⅱ.途中で運動療法を中止する場合
①運動中、中等度の呼吸困難、めまい、嘔気、狭心痛等が出
現した場合
②運動中、脈拍が140回/分を超えた場合
③運動中、1分間10回以上の不整脈が出現した場合
④運動中、収縮期血圧40mmHg以上または拡張期血20mmHg
以上上昇した場合
Ⅲ.途中で運動療法を休ませて様子をみる場合
①脈拍数が運動前の30%を超えた場合
②脈拍数が120回/分を超えた場合
③1分間10回以下の不整脈の出現
④軽い息切れ、動悸が出現した場合
<NYHA心機能分類>
クラス1
身体活動は制限する必要が無い。
日常の身体活動では呼吸困難、狭心症状、疲労、動悸等の愁訴を生じない。
クラス2
身体活動を軽度ないし中等度に制限する必要がある。
安静時または軽労作時には障害が無いが、比較的強い身体活動で上記の愁訴が発現する。
クラス3
身体活動が著しく制約される。
安静時には愁訴が無いが、比較的軽い身体活動で上記の愁訴が出現する。
クラス4
身体活動を制限せざるを得ない。
いかなる程度の身体活動でも上記愁訴が出現し安静時においても心不全症状や狭心症状が起こる。身体活動により症状が増強する。
●日常生活場面での禁忌項目
<食事>
①過食を避ける(満腹後のわずかな労作で狭心症が容易に誘発される事も)。
②肥満の場合は、理想体重に近付けるように。
③カロリーの過剰摂取が肥満の原因である。
④可能ならば低脂肪・低コレステロール食がよい。
⑤塩分の過剰摂取に注意する。
<入浴>
①かがみ姿勢での更衣や洗体、洗髪の際には十分注意する。
②湯船から出る時もゆっくりと立ち上がる。
③急激な血圧の変動を防ぐために、湯の温度は38~40℃程にし、足から徐々にかけ湯をする。
③入浴時間は10~15分、湯船に浸かる時間は3~5分を目安に長風呂は避ける。
④寒暖差に注意し、脱衣所・風呂場を暖めてから(20℃以上)入るように湯冷めに注意する。
⑤入浴前には水分補給。
⑥食事や飲酒直後の入浴は避ける。
<排泄>
①和式便所よりも洋式便所の方が負担が軽い。
②暖かい部屋から寒いトイレに入ると血圧が上昇する為、温かい服装や便座にする。
③就寝前は水分摂取を控え、トイレに行く回数を減らす。または、オムツやポータブルトイレを使用。
④排便時の「いきみ」は血圧を上昇させ心臓に負担を掛けるため、便秘を予防。
<嗜好品>
①喫煙:ニコチンは交感神経を刺激するカテコラミンの分泌が過剰になり、末梢血管が収縮し、心拍数を増加させ、血圧を上げる。また、一酸化炭素がヘモグロビンと結合すると心筋への酸素運搬に支障が生じる恐れがある。
②コーヒー・紅茶・お茶など:カフェインは自律神経を刺激して血管を収縮させ、心臓に負担を掛ける。カフェインを多量に摂取すると血圧が上がったり、不整脈を引き起こす場合がある。
③アルコール:適量の飲酒はリラックス効果によりストレス解消や安眠効果、血管拡張による血圧の低下・血行の促進となる。しかし、適量を超えると肥満や心拍数・血圧の上昇、動脈硬化の進行、肝臓病につながる。
飲酒後は興奮したり、過度の運動を避ける。
<その他>
①家事・外出:血圧や心拍数の上昇を防ぐ為、作業は立ち仕事で行う、水仕事はぬるま湯、重い物を持たない、力まない、伸び上がらない、慌てない、を心掛ける。
②ストレス:過剰なストレスは血管を収縮させ、血圧が上昇する。また、過食・深酒・喫煙等の悪循環に繋がる為、ストレスは溜めない。
参考資料
1)梶原博毅:標準理学療法学・作業療法学 病理学【第2版】,医学書院,108-111,2003.
2)大成浄志:標準理学療法学・作業療法学 内科学【第2版】,医学書院,66-67,2004.
2)山科章:専門医がやさしく教える心臓病,PHP研究所,2008.
3)福井次矢:あなたの家族が病気になった時に読む本 狭心症・心筋梗塞,講談社,2006.
4)半田俊之介:心臓病を治す生活読本,主婦と生活社,2007.
5)木全心一:狭心症・心筋梗塞から身を守る,講談社,2003.
6)渡辺英夫:リハビリテーション診療必携,医歯薬出版,179,2005.